今様歌物語
〜君に会いたい〜

02


 乱暴に鍵穴をガチャガチャと言わせながら、鍵を差そうとする。しかし思ったような手応えはなく、そこで初めて僕は異変に気づいた。自身の愚かな失態に、思わず呟かずにはいられなかった。


「しまった……これじゃない」


 鍵についたプレートは本当なら白いはずなのに、今僕が持っているそれは白に限りなく近い――しかしよく見れば間違えようのない――水色だった。ああ、しまった。僕はその扉の閉まっているのを確認し、もう一度事務室に戻る覚悟をした。

 その時だった。

 何か金属音がした。金属が、擦れるような……。

 もしやと思い、僕は百八十度翻した体をもう百八十度回転させる。無意識に、足音を忍ばせようとしてしまう。静けさがやけに耳に痛い。

 今、ここ西部館には誰もいないはずだ。そう、僕以外、誰も。この西部館の鍵は、僕がこの手で開けたんだ。 

 あり得ない、そう思いながらも僕は先ほどの扉まで戻ってきた。あり得ない。だけど、彼女なら。

 さっきは確かに開くことのなかった扉のノブに、僕は恐る恐る手をかけた。それを捻ることにもそのまま引くことにも、今度は何の抵抗もなかった。何事もなかったかのように開く扉は、軽かった。


「久しぶりだね、灯火野君」


 彼女はふわりと微笑んだ。


「本当に君なんだね……鳥遊、緋穂さん」


 情けないことに僕は、言葉を失ってしまったのだった。

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