今様歌物語
〜君に会いたい〜

01


 「あの日」から、一年と三ヶ月が経っていたらしい。

 春先のまだ冷たい空気が、走り疲れてはずむ僕の息にのって喉に痛い。卒業証書の入った黒い筒が潰れてしまうほどの力で握りしめ、僕はただ走り続ける。君はどこに行ったんだ 、もう君には会えないのか……。僕は焦りでのみ突き動かされていた。そしてまた、走り続けた。

 貸し出し帳簿もそこそこに、ひっつかむように鍵を取りあげた。今僕が向かっている場所は「西門部室会館」。僕ら生徒はそれを略して「西部館」と呼ぶのが通例だ。そこには軽音部や写真部、そして僕の所属する文学部の部室がある。そして。


(そして……)


 僕は君に会いに行く。





 僕が初めて彼女に会った日が、僕が最後に彼女に会った日となった。僕はあの日以来何度も部室を訪れては彼女との再開を期待する日々が続いた。あの日のように話がしたい、君に話したいことなら山のようにあるんだ。朗らかで話すことがとにかく好きな彼女に、そして誰よりも文学を愛する彼女に、僕はいつだって会いたいと切に思っていた。

 そしてもうこの校舎に用はないだろう。でも。


(あれが最初で最後だったなんて……)


 今日、僕は高校の卒業式を迎えてしまった。
 僕はただ、焦っていた。

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