一つだけ、柚希にしか分からない謎があった。
「なあ、どうしてあの日、俺に話しかけようと思ったんだ?」
あの日、あの青い林の中で、荒ぶれる俺に怯むことなく話しかけた彼女。それが俺と柚希の最初の出会いだった。
「私もそうだったけど、あなたのことを知らない人もそういなかったわよ?」
口元を拳で隠してくすりと笑う柚希。
「他人からの視線の中であなたは一人だった。自分で籠った殻の狭さに苦しんでる姿……率直に、似てるって思った」
両手でそっと俺の左手首をとって、袖のボタンを一つずつ外していく。見えてきた肌に刻まれた傷跡は薄くなって、時間経過を物語っていた。
「部活にも入ってないくせに毎日のように黒いリストバンドをして……」
そして柚希がおもむろに自らのシャツの袖のボタンをはずし、裾の方からゆっくり丁寧にまくっていく。
「偶然の一致? やっぱりこの世界は不思議に満ちあふれてる」
しみ一つない、白くて肌理の細かい肌。今までずっとそう思ってたけど――。
「初めて知ったの、鋭利な物で切った方が傷の治りも綺麗みたい」
つ、と彼女が指先でなぞったあたりを目を凝らしてみて見る。肌の白の眩しさにまぎれて、その線は見えた。
「あ……」
見間違うはずがない。綺麗だけど、明らかに肌の肌理を裂いた跡。
「もう、言わなくていいでしょ?」
END