十月一日
 十月一日、水曜日。
 限界を超えた。糸が、ぷつりと切れた。
 森をさまようことを、やめた。このままどうなってもいい。森の中で立ち尽くした。
 激しい腹痛が、僕を襲った。下痢や盲腸とは違う、痛みが。
 学校に行こうと、玄関で靴を履き始めた、その瞬間に痛みは襲った。地響きがするような、痛みだった。あまりにも痛みがおさまらないため、父が病院へ連れて行ってくれた。
 病院は、平日の午前中で小さな医院だからか、そこまで混んではおらず、十分程度の待ち時間で、診察室に呼ばれた。
「……原因不明ですねえ。とりあえず、今日は安静にしていてください」
 年老いた医者はそう言って、顔をしかめながらも、整腸剤を処方してくれた。医者が原因不明と言った理由は簡単。診察室に入ったとたん、痛みが突然なくなったのだ。
 医者は原因不明だと言っていたが――僕には理由がわかっている。
 僕の体が、学校という存在を拒絶し始めているのだ。学校という存在に、恐怖を感じ始めているのだ。
 そして僕はようやく、いじめられているんだとわかった。いじめられている現実を、受け入れることができた。
 いじめはなぜ、起こるのだろう。単なる思いつきなのだろうか。たまたま僕が、標的にされてしまっただけなのだろうか。この世界は僕が思っているより、複雑で、汚いのかもしれない。
 森の木に、葉がさらに生い茂る。目の前が、だんだん見えなくなってくる。僕はただ、立ち尽くすだけ。
 森は、しんと静まり返っていて、なにも聞こえない。もしかしたら、なにか聞こえているのかもしれないけれど、今は聞きたくない。
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