12.告白

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 異常気象が毎年のように天候の記録を塗り替えていく。不穏な時代に僕たちは生きている。
 大学付近に今日、10年に一度レベルの大型台風が接近した。窓に向かって降りしきる大雨は半透明なカーテンのようで、その向こうから雷鳴とともに眩しい稲光が何度も部屋を照らした。雷は否が応でもカメラが発するフラッシュを思い起こさせるから、あまり好きじゃない。
「はい、どうぞ」
「ありがと……」
 色気のないマグカップは、可那子さんの小さな手に不釣り合いだった。この悪天候の中、わざわざ僕の部屋に来たがった可那子さんの真意が掴めない。ただその言いにくそうな重たげなまなざしを玄関で見た時から、覚悟はしていた。
「謙太くんは、本当に私のこと好き?」
 “僕は好意が怖くてたまらない”……いつ誰にそんな弱音を吐いただろうか。他人の好意に恐れ戦く僕が、誰かのことを好きになることなんて。
「なんでそんな」
「お願い、答えて」
 誰かを好きになる、それがどういうことかさえはっきりと分かる人なんていないんじゃないかと思う。
「好き、だよ」
「まーちゃんと、どっちが好き?」
 息継ぎも許すまじと投げかけられる質問。可那子さんは僕と目を合わせてくれない。可那子さんと左良井さんの話をすることなんてほとんどなかった。
「なんで」
「なんでって……私に聞くの?」
 うつむきながらクシャ、と無理やり笑う表情は、その端からびりびりと破れてはがれてしまいそうに薄く感じた。
「綺麗だし、頭いいし、謙太くんと空気が似てるっていうか……一年の最初の時から話が合うみたいだったよね。
 謙太くんに可愛いって言われたときからね、私、謙太くんと仲良くなりたくて仕方なかった。でもどうしていいか分からなくて、最初の頃はよくまーちゃんに相談しにいったりしてたの。いつもどこで勉強してるとか、携帯はスマートフォンじゃないこととか……いろいろ、教えてもらった」
 私よりもずっと先に、いろいろ、知ってた。
 可那子さんはそう呟いて寂しそうに笑った。
 なんで突然そんな話をするのか、可那子さんはどうしたいのか。僕は分からずただ話を聞いていた。
「飲み会のときも、バーベキューのときも、バレンタインの日も、謙太くんはまーちゃんと話してた。何もない日でさえも謙太くんはまーちゃんのことを目で追ってたんだよ。二人が話してると、二人の世界ができるっていうか……誰も入ってこれない二人だけの空気ができるのが、わかるの。それが羨ましかった……」
 バーベキュー。海岸で左良井さんと話をした日だ。恋人と別れたって、打ち明けられた日。そして二人で夜の海ではしゃいだ日。
「謙太くんがまーちゃんを見る目が、日に日に切なくなっていくの。話したくて、近くにいきたくて、でもそれを堪えているような顔をするの。私はそれを隣で見るの。見て見ぬ振りをして、今度のデートの話とかを謙太くんにするの。
 それって結構、つらいの」
 一際大きい雷鳴が街一帯をびりびりと襲う。しかし可那子さんの訴える何もかもはそれに掻き消されることなく僕に伝わってきた。


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