四話 バッドエンド 


本がびっしりと、それこそ所狭しと並べられているところに俺は居る。
セピアの色をべたべた雑に塗りたくったような広い広い部屋の中に、違和感だけをどかんと放り投げたみたいな白いベッド。
俺はそこに横になって居るのだ。


△▽△


最後に見た空の色は綺麗な赤であった。夕暮れ、子供の笑い声、車が狭い道路を走って消える。空は刻々とその色を黒に染め上げ、この瞬間を何か一つだけに、永遠に閉じ込めてしまいたいと強く願った。太陽に寿命はある。近いうちに爆発して、その時果たして地球は残って居るのだろうか。天命を全うする人間なんてそうそう居ないし、俺は直に心臓を止めて死に至る。
せめてもう一度だけでもあの空を見ることは出来ないか。埃とインクが混ざった古い匂いは俺を苛んだ。


神様たちは恐れました。自分らと同じ程の知恵をつけた人間は、次こそ自分らを喰らいにくる。


不老不死という言葉がある。
体は朽ちず、心臓に杭を打たれても死なず、永遠を同じ身体で過ごす。時の権力者は挙ってそれを求めて度々争いを起こし、結果手に入れたのは重過ぎるほど莫大な死と、それを招く深い傷のみ。なんと、報われない話。

「貴方はなにを求めて居るの?」

ふと現れた少女は難しい本を読みながら俺に話しかけた。かくりと折れ曲がる細い腕を浮かせながら俺は応えようと、ひうと息を吸う。

「太陽を、あの空を」
「なさけない話だね」
「こうじゃないと俺はどこにも行けない」

どこにも行けないのはどちらだ。かのランプの魔人のように、莫大な力はかえってその身を縛るのではないか。

「でもいいよ、かなえてあげる」
「嘘が下手すぎる」
「わたしは前科がないからね」

ふふんと大げさに胸を張る少女は底無しに白かった。

「それじゃあひんとを上げよう」

黒い本をばたんと閉じる。

「金色はどこ?」


かつて築かれた巨大な塔は、巨大な稲妻で打ち砕かれた。言葉も分けられた人類は国を創り、またも争いを起こした。
どこで誤ったのか。


赤を食らえば死は訪れないと信じていた。あの色を俺のものにすれば、広い部屋を崩すことが出来ると思っていた。目の前の赤、質量は其処には一切無く、あるのは霞と荒れ狂う白の扉だけ。

「誰もいないよ、さびしいね」

少女は白く、赤く、影もなくただただ黒かった。


神様は再び築かれていく高い塔に怯えて、それだけを残して逃げました。無感情に廻る時間と、星と、永遠を奪った月と太陽。
バッドエンドに相応しい終わりを。



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