第5話 


ざわざわと、先生が席替えのくじを作っているあいだ私たち生徒は読書したり近くの人と話したり、それなりに自由に過ごしていた。

「おい、」

「なに原田くん。」

「なんで図書委員やったんだよ」

「楽そうなの選んだな、って君が言ってたじゃないか」

「それだけ?」

「もちろん」

なーんだ、とつまらなそうな顔をした原田くんを見やってから、手元の本に視線を落とす。

「それに本は嫌いじゃないから」

「ふうん…」

会話が途切れた所で、先生が嬉々としてくじを掲げた。

我先に、と席をたつクラスメイトの列から出てきたのは図書委員仲間の橋本だった。

「あー、図書委員よろしくねー」

「おう」

相変わらず強面で威圧感がある。クラスメイトも極力彼の視界に入らないように体を小さくしている。

「あ、そうだ。どうせなら連絡先でも交換したら?」

「は?!」

「そうねー、その方が事務連絡とかもしやすいし」

「それに徹はどうせ当番の日とか忘れるだろ」

ケラケラと笑う原田くんの頭を思いっきり鷲掴みにした橋本くん。

「忘れねぇよ…!」

「いいいだいいだだだ!!!」

「やめて!彼のライフはもうゼロよ!」

「ぶふ、おま、野村」

無駄に甲高い声で言えばツボに入ったのか痛がりながらも器用に笑う原田くん。

「あー…、じゃあ。とりあえずくじ引いてこい、連絡先書いてくっから。」

「はいよー」

長蛇の列が残り数名になっていたようで、橋本くんの言葉通り、女子列の最後尾にならんで番号のかかれたくじをひく。

そのあと、綺麗に小さく切り取られたルーズリーフにこれまた止めや跳ねが綺麗な文字で書かれた電話番号とメールアドレスをもらった。

「字、すっごい綺麗だね。野村さん驚愕だわ。」

「……習字やってたからな」

「え、そうなの?カッコいいね」

「かっ!?」

あ、もしかして照れてる?かーわいー。クスクスと笑いながらいう私の髪をグシャグシャにした彼の手は、優しかった。



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