第3話
「どーもー!」
語尾に星マークをつけながら私の机に両手をついた原田君。最近彼は髪を金色に染めたようでキラキラ輝くそれは見ていて少し眩しい。
「テンション高いね、どうし」
「はぁらぁだぁぁぁああ!!!」
ガラガラ!と立て付けの悪い扉を力付くで押し明け怒鳴るのは頬に傷をつけてきた橋本だ。制服も所々汚れている。
「ひぇー、おっかないなぁ徹」
ドスドスと激怒りモードで教室に入ってきた橋本にクラスメートはサッと逃げるようにして教室から出ていった。私に哀れむような視線を寄越して。
「マジ腹立つ一発殴っていいか」
「ちょ、ごめんて徹マジになんなよ」
橋本が本気だとわかって焦ったのか笑みを浮かべつつ私を盾にするように左側に回り込んできた。本当にもうやめてくれ。本を読ませてくれ頼むから。
「ねぇ」
「てめぇのせいで俺が巻き添え食らうはめに」
「ねぇ」
「だからごめんって、ほんとに謝るから許せよ。俺たちの仲だろ」
「ねぇ!!私を挟んで険悪ムード出すのやめてくれる?!」
ガタン!と席を立って叫ぶと、橋本の恐ろしい視線が私を突き刺した。とっても痛いけどここで折れたら負けだと思うんだよ。
「なになに?高校生にもなってまだそんなことしてるの?」
笑っちゃうね、といいながら教室に入ってきたのは胡散臭いイケメン。誰だ。少なくとも私のクラスメートではない。
ミルクティーみたいな色の髪をふわふわさせながら寄ってくる胡散臭いイケメンは、ひらりと私にも手を振る。
「どーもこいつらがお世話になってるよーでー」
「あ…はい、どうも」
「なんだよ孝太なにしにきやがった……」
うげ、と顔を歪めたのは橋本の方で、原田君は笑みを浮かべているのになぜかその笑みには影がさしてみえる。
「昨日ぶりだな孝太!相変わらず女の子にモテモテなんだって?爆発しろ」
「お前らは相変わらずクラスで浮いてるらしいな非リア充どもが」
「おい俺は無視なのか」
うわー!!と、ニコニコ爽やかイケメンスマイルで吐かれた暴言に心でシャウトする。こいつあれか、腹黒ドSタイプだな。漫画でありがちの。
「……ねぇ橋本君」
「あ?」
にらみ合いを始めた二人のことはもう放っといていいだろうと橋本に話しかけた。気になることがあったのだ、鞄をごそごそしてポーチを取り出す。
「ほっぺ、血出てる。猫にでもひっかかれたの?」
「あー…、なんでもねぇよ」
気まずそうにも聞こえた声にあ、これは踏み込まない方がいいなと献策するような真似はせずにポーチから絆創膏を取り出す。
「!」
そっぽを向きながらピアスを弄っていたのを良いことに、お気に入りのドット柄の絆創膏を勝手に貼る。ビクリと彼の肩がはねた。
「…さ、サンキューな」
「と、徹…?お前マジで徹?徹なの??お前本物??」
「おい…お前いつからそんなキャラになっちゃったんだよ高校生になって浮かれて…
ああああ!!!まさか君が野村 遥ちゃん?!」
「ちょ、馬鹿孝太!テメェちょっと来い!」
急に騒ぎだしたかと思えば教室から出ていった二人の後ろ姿を眺めながら、なにあいつら、と思わず口から心の声がこぼれた。
「……橘 孝太。俺の馴染みだ。アイツには気を付けろよ。俺たちのなかで一番の変人だからな」
「りょ、了解…です?」
首をかしげながら頷いた私に、クシャリと笑った橋本、その笑みになんだかドキリとした。
「……いつか、見たような」
「なんか言ったか?」
「なんでもない、よ」
誤魔化すためにサッサと荷物を肩にかけて教室を飛び出した。橋本の笑顔、初めてみたはずなのに、何処かで見たことあるような感じがした。
「……この絆創膏、昔から変わんねぇのな」
窓ガラスにうつった姿を見て呟いた。
鋭い眼光に輝くピアス。それに不釣り合いなドット柄の絆創膏がチリチリと、胸を焦がした。
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