その夜、危険





目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋。










その夜、危険










『…えー。』




明らかに、違うのだ。

私が今横になっているベッド。

壁紙の色。

部屋の匂い。

インテリアの位置。

何から何まで、私の部屋とは違う。





ここ…何処ぉぉぉ!?





「あ、起きたんだね。」



ガチャ、とドアの開く音と共に聞こえた若い男の人の声。
そちら側をフッと振り返った。
そこには、聞き心地の良い声・A1級という実力・スラリとした体型に甘いマスクを兼ね揃えた、同期のレーサー。


潮崎 俊也。



『潮崎君…!?何でここにいるの!?』
「はは。ここ、僕の部屋なんだよ。」
『あー、なるほどね。だから見覚え無かったんだー…って、ちょっと待って!!』
「全く。あんな所で寝てるものだから、放っておけなかったよ。」
『え…?』



あんな所…って、どこ??

記憶をたどってみる。


たしか、あれは桐生でのレースの後―――







『優勝しちゃった…!私、混合戦だけど勝っちゃった…!!』
「やっぱり強いッスね、 ばるこさん。」
『波多野君、お疲れ!いや、でも危なかったよ、正直。あんまし波多野君と差なかったしね。接戦だったわ。』
「そんなことないッスよ。蒲生さんもターン見て言ってましたよ、なんやあのべっぴんさんはー!?って。」
『それターンと関係なくない!?』
「あはは。とにかく、次は負けません!俺ももっと練習してきます!」
『うん、私も負けない!じゃぁ、またねー。』
「はい!」



「こすも選手、表彰式の方へ。」
『あ、はい!!』






「ばるこ!」
『櫛田さん!』
「おめでとう!男子顔負けの見事な旋回だったわね。」
『えへへ、ありがとうございます!何度も戦ったけど、私、櫛田さんに勝ったのはこれが初めてです。』
「ふふ。油断ならないわね、次は私も負けないわ。そうそう、良かったらこの後飲みに行かない?」
『あーッ、イイですね賛成ー!!』




ふ。



その後…覚えてない。



確か、調子に乗って飲んで…

あ、何か思い出しそう。





『き〜もちい〜ぃぃ〜』
「ちょ、ちょっと飲み過ぎ…」
『んなコトないよぉ、飲ま飲まイェイ〜〜』
「古いわ…古いわよ、ばるこ!」
『あ、眠た…い』
「えっ、ちょっと?こんな所で寝ないでよ…!?」
『う、ん…?…すぴー』
「うそぉ…」





…ここまでしか覚えてない。

何、どうなったんだろう、私。



『ゴメン、潮崎君。やっぱ私覚えてない。』
「そのようだね。」
『え、私もしかして…パンツ……あ、はいてるわ大丈夫だわ。』
「ちょっとはしたないよこすもさん。仕方ないね、教えてあげるよ。」







「誰かと思ったら…ばるこさんと櫛田さん?」
「潮崎君?なぜ…あぁ、潮崎くんは群馬支部だったわね。」
「ええ。ここ桐生は僕の地元なので、この店にはよく来るんですよ。岡泉さんと来ていたんですが、彼は先に帰ったので僕も今から帰るところです。」
『…すぴー』
「ところで、こすもさんは…?」
「飲み過ぎて寝ちゃったの。多分、しばらく起きないと思うわ。」
「そうですか…僕の家、すぐ近くなんですが、僕がこすもさんの面倒を見ましょうか?」
「え?」
「櫛田さんは新幹線で福岡まで帰らないといけないですよね?」
「ええ、そうね。それに、潮崎くんはばること同期だものね。ごめん、お願いするわ。」





…って、オイ!!


「危ないからダメ」って言ってください、櫛田さん!


いや、潮崎君だし大丈夫だとは思わなくはないよ。

でも私、一応だけど女の子なんですけど…!?





『そうなのね…ご迷惑おかけしました…それで、あの、私、そろそろ帰ってもよろしいでしょうか…?』
「ふふっ。終電もうないよ。ここから遠いだろ?遠慮せずに泊まっていったらどうかな?」
『あはは。遠慮しとくよ、危ないから。』
「危ない?」
『うん。』
「そんなことないさ、  泊  ま  っ  て  い  き  な  よ  」
『!?……あ、じゃぁ、お願いします…』
「うん、それが良いよ。」



何だろう、泊まっていきなよ、と言われたとき妙に断れない気がした。



『…あ、櫛田さんからメール入ってる。』



ー今頃、お楽しみかしら??潮崎君とばるこなら、お似合いだと思うわよ。



お楽しみって何ですかぁぁぁ!?



く、櫛田さん…真面目で純粋そうに見えるのにっ…!
あんた考えてることサイテーやでえええ!



「櫛田さん、何だって??」
『 教 え ま せ ん よ 』
「どれどれ…ふーん、お似合いかぁ…」
『わーーーーー!』
「ふふ。」
『そんな、私別に、シタゴコロとか……って、あれ?』
「どうかしたのかい?」
『あの、今気付いたんだけど。』
「うん?」
『私、飲みに行ったときはスーツ着てたよね。』
「そうだね。」
『今はTシャツにジャージなんだよね。』
「あぁ。」
『私、自分で着替えた記憶ないんだよね。』
「うん。」
『えっ?』
「僕が着替えさせてあげたんだよ。」
『マジ!?』
「マジ。」
『よ、嫁入り前なのにーーー!』





私の人生の歯車が、狂った瞬間であった。





++ END ++




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