凍えそうな夜だから





家に帰ると、彼女が待っていた。










凍えそうな夜だから










「おー…珍しいな。」


俺が前検から一人暮らしのマンションに帰ると、彼女であるばるこが来ており、白いエプロンをして晩ご飯を作っていた。



『猛、お帰りー!そろそろ帰って来る時間だと思ってたの。ご飯、もうちょい待ってね。』
「おぉ!すっげー良い匂いだな。何だ?」
『えへー!野菜をたくさん摂れるよーに、ミネストローネだよ。それと、パスタ。』
「いいねぇ、旨そうだな!俺、何か手伝うことあるか?」
『ううん、大丈夫。ほら、手洗いうがい!ちゃんとしないとー。』
「うっ…分かってるっつーの。」



頭を掻きながら洗面所へ向かう俺の後ろ姿を見てくすっと笑うと、ばるこは視線を目の前の鍋に向けた。



「ちゃんとしてきたぞ。」
『こっちもねぇ、すぐ出来るよ。…って、ちょっと。』
「何だ?」
『身動き取れないんですけどー』



俺は後ろからばるこを抱きしめる。



「いーじゃねーか。」
『よ、良くない…ッ』
「恥ずかしがり屋だなー、ばるこは。」
『ち、違うわよ、バカ!』
「照れるな照れるな。」
『も、もぉ!離してくれないと、おたまで頭殴るわよ!?』
「怖ぇな、お前!」



ちぇ、と言いつつばるこから手を離す浜岡。



『はい、出来たよー!着席ぃー!』
「おー。」



テーブルに、スープとパスタが並べられる。
そして、ばるこは冷蔵庫からサイダーを取り出した。



『本当はワインにしたかったんだけど…猛、ダメだもんね。』
「あぁ?ダメじゃねーよ。」
『いや、ダメじゃん!ちょーお酒弱いじゃん!』
「そ、そうかよ…」




仕方ねぇ、サイダーで我慢するか。
そして俺は両手を合わし、いただきますと言うと料理に手をつけた。








「上手かったぜー。ご馳走様でした。」
『いーえ、お粗末様でした。』
「しっかし、料理の腕上げたよなー」
『そう?良かった!』
「おぉ!…あ、そーだ。競艇のニュース見ねぇとな。」




二人が並んでテレビを見ている。
俺はばるこに急に抱き着いてみる。



『ひぃッ!!…な、何よぉ…』
「っていうか、そんなに驚くことかよ。」
『だ、だって…』
「ばるこは黙って俺に抱き着かれてりゃ良いんだよ。」



ばるこもまんざらではない様子で、顔を赤くして大人しくしていた……が。



「…ん?」
『すー…すー…』



気が付くと、ばるこはすでに夢の中であった。



「…可愛い寝顔しやがって。」



ツン、と頬をつつくが、目を覚ます気配もない。



「おーい、風邪引くぞ。」



肩を揺するが、ばるこは微動だにしない。
はぁ、とため息をつき、近くにあったタオルケットをばるこにかけてやる。
そしてまた、俺はテレビに目を向けた。





「…ばるこ。いや、聞こえてねーと思うけど。」


ふと、つぶやいた。



「ありがとうよ。」



相変わらずばるこは気持ち良さそうに寝ているが。



「外は寒いけどよ、お前といると心は暖かくなるんだよな。」
『…クサイ台詞だね。』
「うおッ!ば、お前起きてたのかよ!!」
『ご、ごめっ…でも起きたのホントついさっきなの!』
「くっそー、何か恥ずかしいな。」
『良いよ、嬉しかったから。』
「そ、そうか?」
『うん。猛の言葉一つ一つが私の一部になるんだー。』
「何だよそれ、恥ずかしい台詞だな。」
『わざと言ったんだもーん。』
「そうかよ。」



俺とばるこはお互いに顔を見合わせ、そして笑った。



『競艇のニュース、終わったみたいだね。』
「ああ。」
『……背中、流してあげようか?』
「つまり、何だ、その…」
『いや、別に、なんていうか…いらないならいいよ?』
「バカ!流してもらうに決まってんだろ。」
『…私ちゃんとバスタオル巻こ。』
「…チッ」
『うわぁ……』





凍えそうな夜だから、
今夜はずっと一緒にいよう。





++ END ++




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