137 情想(※15歳以下の方は飛ばして下さい)
炭釜のそばに立つ粗末な小屋には、炭独特のツンと酸っぱい臭いが満ちていた。
だが、むしろや掛け布が無造作に置かれ、屋根を借りるには充分だった。
木戸を開けて中に入った斎藤は、途中で集めた小枝を囲炉裏の横に置くと、千恵を引き寄せてその腕に包んだ。
千恵の首元に結ばれた飾り紐を引っ張って解くと、少し戸惑う。洋装を脱がせるのは初めてだ。
釦を指でつまみ、小さく苦笑する。
「どうも勝手が違うな。中々お前に辿り着けん気がする」
「なら……自分でします。……あまり見ないで、下さいね?」
自分から脱ぐ、という千恵はかなり恥ずかしそうに俯き、慣れているはずなのにぎこちなく釦に手を掛けた。
その様子が妙に初々しく、面倒な釦など引きちぎって白い肌に唇を当てたい衝動を抑えながら、ジリジリと待った。
上着を脱ぎ、シャツの止め具が一つ一つ外される度、少しずつ露わになる肌が眩しい。
最後の釦に千恵が指を掛けた時にはもう、膨らみを押さえている晒しに手を伸ばしていた。
「愛している」
言葉にすると陳腐に聞こえやしないだろうか?
他に伝える言葉を持たない俺は、表すに足りない想いを抱え、持て余した熱を唇に捧げた。
柔らかい唇は全部を受け止めるように優しく開き、釦を外し終えた手が首に絡みついてくる。
そっと舌を差し込むとゆっくりと抜き差ししながら、千恵の情欲を煽ってゆく。
指先で晒しの端を探り、引き出して解いていくと、羞恥からか肌を隠すように身を添わせてくる。
構わず胸が露わになるまで引き下ろし、周囲から丘を登るように手を這わせると、千恵の息が乱れてきた。
唇から漏れる吐息に甘い声が小さく重なり、背筋に愉悦めいた震えが走る。
「下はもっと面倒だな」
唇を離してズボンを見ると、ここにもまた釦がついている。
夜着なら紐一本引っ張れば事足りるのに、本当に洋装は厄介だな。そんな事を考えていると。
突然、千恵が体を離して後ろを向く。何をする気かと思ったら、少ししてスルリとズボンが下に落ちた。
艶かしい曲線が一気に露わになり、薄暗い小屋に場違いな白いスラッとした足が俺の熱を煽る。
「綺麗だ。フッ、たがが外れそうになる眺めだ」
「あまり見ないで下さ……アッ……」
千恵を立たせたままその足元にしゃがみ込み、膝から腿へと唇を這わせる。
ひんやりとした太腿は内側に近づくにつれ柔らかく熱を帯び。
小さな布切れに慎ましく隠された場所に近づくと、彼女の足が震えた。
一思いに腰の布切れを下ろし唇を寄せると、待ちかねたように雫が舌先に伝わった。
細かく息を吐く千恵の手が、俺の髪に添えられる。
壁板に身を預けて快感を堪える様は淫らで。
乱しているのが己だと思うと余計にその艶めく姿にそそられた。
ガクガクと震えだした膝が教える余裕のなさ。
小さな嬌声が下腹の昂ぶりを誘い、恥ずかしさに染まる肌が俺を求めて香りを放つ。
もどかしくズボンの釦を外し、取り出したその勢いで千恵を押し倒して身を一つにすると。
「ああっっ!!」
包まれた熱に心が満たされていく。渇きが癒えてゆく。
煽り、誘い、求めるままに。
突き上げてくる愛おしさと、襲い来る激しい欲に動かされ、狂おしいほどの想いをぶつけた。
何度愛していると言っただろう。お前が俺を変えていく。
墨で描かれた世界に、色が塗られていく。
一度知った鮮やかな感情は、失うにはあまりに大き過ぎて、手放すには余りに尊い。
好いた女を妻に娶った。己の愛する女と共にいる。それだけの事実が、暗かった道に明るい光を照らす。
それだけで……幸せになれる。
お前が俺に、強さをくれる。
そして、俺を信じるお前はきっと……誰よりも強い。
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