禍ノ子
 天敵 / 椿


 すっかり温まって部屋へ戻ったが、まだ誰も帰ってきていなかった。
 今更、誰が同室者か知らない。どうせ当日が来れば分かることだと思っていたけれど、こんな時間になって管理室まで聞きにいく訳にもいかない。
 諦めて部屋の電気を消そうと立ち上がった瞬間、部屋の入り口のほうでガタン! と物音がした。
 どうやら同室者が帰ってきたらしい。

 しかし、ドアの前に倒れていたのは酔い潰れた大志だった。

「た、大志? なんでここに」
「……なんでって、俺の部屋ここ……」
「だって透が同室じゃ、」
「透は調査班だ」

 困惑した視線がぶつかった。え、まさか。そんなの聞いていない。

「あいつすげー頭いいだろ……あー、やばい気持ち悪……」
「ちょ、ちょっと、ベッドまで頑張って歩ける?」

 いろいろ言いたいことはあるけれど、ここで寝られても困る。先輩たちを大志に押し付けて逃げ出した自覚はあったので、半分罪の意識で肩を貸した。必死でベッドまで引きずっていき、縺れるように椿まで倒れてしまう。慌てて起きあがろうとしても一向に大志が引き剥がせない。いや、どんだけ飲まされたんだ。

「大志、いいかげんに、」
「なあ、まだ俺の言うことひとつも聞いてもらってないんだけど」

 両手で椿の腹部を捕まえたまま、大志はぼそっとつぶやいた。

「言っただろ、負けた方が勝った方の言うことなんでも聞くって」
「はあ? そっちが一方的に言ったことだし、っていうかなんか話が飛躍してるし」

 呆れる椿の腕を掴むと、大志は不適に笑った。うわ、やっぱりめちゃくちゃに酔っぱらっている。いつかベンチで話した時は、あれはあれで一応ちゃんとしていたみたいだ。今は全くレベルが違う。なんていうか目が据わっている。

「乳首弄らせて」

 ちょっとだけ見直した、だなんて思った自分を力一杯殴ってやりたい。

「ちょっ……やめて、いやっ」

 信じられなさすぎて、突然すぎて、抵抗するタイミングを逃してしまった。最初から大志のターゲットは決まっていたらしい。椿の紺色のTシャツをさっさとたくしあげると、目当ての乳首をじっと無言で見つめている。
 大きめのやわらかな乳暈はふっくりと膨れて、薄いピンク色だ。小さな割れ目がちょんちょんとついていて、やはり乳首はその奥に埋もれている。

「これつまんでみてもいい?」
「だ、だめ」

 質問の意味もなく、両手の人差し指と親指で下から持ち上げるように優しくつままれる。ふにゅっと頼りなく潰された乳暈の割れ目から、小粒の乳首が顔を出した。風呂上がりな事も相まって、随分柔らかい。お前もうちょっと隠れておけ、と言いたくなるくらい素直な登場に、むしろ大志は興奮したらしく、指を放せば元通りになる乳首を何度もつまんでは放しを繰り返している。

「はぁ、はぁ……なにこの形状記憶……あー、エロすぎ」

 つまんだ状態のまま、大志は唇を寄せると乳首の先をぬるんと舐めた。

「やっ、いや! 何してるの……あっ」

 ちゅっ、ちゅっ、とまるで赤子が吸い付くみたいに乳首を吸われて、この異常事態に全く対処できない。

「……っん、…ん、……」

 静かな二人だけの部屋に、押し殺した椿の声と、大志が乳首に吸い付く音だけが響く。乳暈から涎が滴るくらいにされて、剥き出しの下腹部までもどかしくなり始めるころ、ようやく大志の口が離れた。
 吸い尽くされた乳首は、唾液に光ってその頭を出したままだ。確かめるように指先でくりくり転がされて、思わずのけぞった。

「ああ、乳首出ちゃったな」
「やだ……あっ、やめて」

 悪い顔をした大志が、見せつけるように乳首を甘噛みしてくる。まさか噛みちぎりはしないだろうが、まるでその感触を楽しんでいる様子に、椿はとんでもない羞恥心に襲われた。


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