戦禍ノ子
初恋 / 虎太
「それで、僕に男の経験があるかを聞きにきたのか」
「そうだ。お前があんなに詳しく話すから、途中から気が気じゃなかった」
膝を突き合わせるようにして座った咲人は、一瞬無言になった。その静寂を誤魔化すように、虎太は咲人が入れてきた熱い茶を啜る。
嘘だと言ってくれ。そんなことを心配して戻ってきたのか、と笑い飛ばしてくれ。虎太は緊張で湿る掌をズボンに擦りつけて拭うと、目の前の艶めいた唇を見つめた。
「そうだとしたら気が付くのが遅いよ。コタはやっぱりバカだ」
「……なっ」
咲人の告白は、虎太を奈落の底へ付き落とした。
「この街で暮らす俺が、綺麗な身体でいる訳がないだろう」
「ば、馬鹿言うな。だってお前は男だ」
「男同士でも出来ると一ノ瀬君に教えたのはコタじゃないか」
鼻で笑い飛ばした咲人は、呆れたように虎太の眦を見つめた。
「……女の経験もないくせに、よく言うよ」
「え!? なんでお前それを、」
「見てれば分かる」
咲人の言う通り、虎太は未だ童貞だった。
セックスに興味はあるものの、女性には悉く振られているし、花街で初めての経験をしようにも、その噂が真っ先に咲人の耳に入りそうなので何となく出来ない。性欲が暴発しそうな最近では、男の一ノ瀬頼に気持ちが傾いたが、それも不発に終わっている。
「……そっ、それはだな、その、つまり」
「俺が筆おろししてやろうか、虎太」
真っ赤になった虎太の耳朶を見つめながら、咲人はひどく軽い調子で呟いた。
「え?」
「安心しろ、幼馴染のよしみで料金はタダにしてやるから」
壁に背をつけたまま硬直した虎太の側まで来ると、咲人は猫のように背中をしならせて屈んだ。
ジジッと、ファスナーを下ろす音が耳に届く。今のこの状況を処理しきれずに、取り合えず落ち着こうと虎太は窓の外に視線をやった。
もう今にも日は沈む。花街の提灯が揺れて、道を行きかう人々の雑踏が窓から入り込んでいる。
まさか、外から見えないよな。という無粋な心配も、しっとりと柔らかい舌に亀頭の先端に溜まった雫と一緒に舐めとられてしまった。
「しょっぱい」
それはさっき小便をしたからだ、とかっと熱くなった頭で考える。しかし咲人にとってはとるに足らないことらしく、窄めた唇に少しずつ亀頭を含むとそのまま楽しそうにちゅうちゅうと啜った。
そんなに吸ったら、いろいろ出てしまう。
必死に股間に力を入れてみたが、それも咲人の舌技の前では無意味だった。鈴口を舌先でなじられて、尿道が膨れる。
「う、おぁッ」
「ん、今ちょっとおしっこしただろ、コタ」
拗ねたような美しい咲人の表情に、脳天から射精しそうになった。赤い舌先がゆっくりと濡れた唇を舐めるのを、眩暈がするような思いで見つめる。
あの何かの花ビラみたいな可憐な唇を汚してしまったのだ。嘘みたいに綺麗な幼馴染が、自分のあれにしゃぶりついている。
太い血管を浮き上がらせた裏筋に舌を這わせながら、咲人がくすくすと笑った。
「くすぐったい?」
「あ、う……少し」
「ふふ、可愛い」
括れのあたりに口づけを落とすと、身を起こして虎太の膝に跨った咲人は、器用に自分の下着を落とした。
制服のシャツのボタンはきっちりと一番上まで止められているのに、淡い二つの突起が透けて尖っている。露出した二本の白い太ももの間からは、新種の果実のような性器が顔を出していた。花の蕾のような形のそれは先のほうだけが慎ましく窄まっている。
「咲人、皮被ってる」
「ん、恥ずかしい。コタが剥いて」
「え!?」
シャツの裾を自分でたくし上げた咲人の頬が、淡く染まった。
「ん、早く」
手をとられて股間へもっていかれ、意を決した虎太が摘まんで引っ張ると、緩んだ皮の間から見事な桃色が顔を出した。
その敏感な亀頭を虎太のものと合わせて、粘膜を擦るようにキスをさせる。
咲人も、熱かった。男同士でまさか陰部をこすり合わせる日がくるとは思っていなかったが、なかなかどうして興奮する。
咲人からもぬるぬるした先走りが溢れるのを見て、彼も気持ちがいいのだと単純に嬉しかった。
おもむろに腰をあげた咲人は、自分の包皮を再びもとに戻すとさらにそれを引っ張った。筒状に余った皮だけが伸びて、その中に空洞ができている。
咲人はその部分で虎太の亀頭をぱくっと包んでしまった。
「あっ、」
いつもは咲人を大切に包んでいる皮が、切なげに伸びて、代わりに自分の亀頭を締め付ける。その内側は次第に満たされる体液で混ざり合い、頭が真っ白になった。
「あ、んはぁっ、コタのおっきいから、俺の皮伸びちゃうかも」
「お、お前、いつもこんなことしてんの」
「ふふ、さあね」
咲人はしばらく皮の上から擦るようにくるくると指を動かしていたが、細い腰を振るわすとそのまま果ててしまった。
咲人の熱い白濁が伸びた皮の間から溢れ、危うく虎太も射精しそうになる。
「あ、はあ、イッちゃった」
「咲人……お前エロすぎねーか」
「やだな、これからが本番だよ」
腹をへこませて快感の余韻に震えていた咲人は、赤く濡れた唇をそろりと舐めた。