「…え、」

それ以上声をあげる間もなく、吹っ飛んできた書類はばさばさと音を立てて容赦なく私に降り注いだ。
何これいじめ?
大量の書類に埋もれながら考えたが、考えるまでもなく答えは分かっていた。
事務室+吹っ飛ぶ書類=小松田秀作のドジ。
分かりきった公式である。
そんな事を考えていたら案の定情けないひゃあああという声が部屋に響いた。
うん、間違いない、小松田だ。

「うわわ、大丈夫?生きてる?死んじゃった?」
「…縁起でもない事を言わないで下さい」
「あ、よかったあ。無事みたいだね」

ほわーんとした空気を纏った小松田が、書類のせいで身動きの取れない私の手を取ってひょいと引き上げて立たせてくれる。
流石にへっぽことはいえ忍者、しっかり私を支えてくれた。
内心こいつ私を掴んだまますっ転んだりしないだろうなとか疑ってごめん小松田。
小松田を少しだけ見直しつつお礼を言えば、いいえーと微笑まれた。
何これかわいい。

「えーと、私今日からこちらで事務員として働かせていただく名字名前です。よろしくお願いします」
「あーうん、聞いてるよー。空から降ってきた天女さまなんだよねー」

間延びした喋りでのほほんと言われ、すっかり天女で通ってしまっている事を察して疲労感を覚えた。
この様子じゃ小松田には天女補正が効いてないっぽいけど…油断は禁物だ。
あの土井先生だってまさかの患者さんだったし。
警戒するに越した事はない。

まあそれはともかくまずは小松田の天女呼びを訂正しておこう。
死亡フラグを折るためには天女じゃないという地道なアピールが必要だ。
呼ばれる度に訂正していけば自然と天女というのを忘れて…くれると願いたい。

「あの、私別に天女とかじゃなくただの一般市民なので、名前で呼んで頂けるとありがたいです」
「あ、そうなの?じゃあ名字さん、僕は小松田秀作です。よろしくねー」

即座に名前呼びに変更した小松田に名乗られ握手をしながら思う。
こんなあっさり不審者の言う通りにしちゃうとか、小松田マジで忍者向いてないだろ。
流石に一般人よりは強いだろうけど、こりゃアホのは組と言われる主人公三人組に負ける訳だ。
小松田には悪いが彼を口車に乗せて外出の許可をもぎ取る自信がわいてきた。
まあ天女補正を見事に解消できたら小松田が責められる事もないだろう。
むしろよくやったと褒められてもいいぐらいだ。
誰かが褒めずとも私が誉めるから安心したまえよ、小松田くん。

上から目線で考えつつ、とりあえず足元の書類を片付けようと屈むとどうしたの?なんて言葉が頭の上に降ってくる。
いやいやどうしたの?じゃないだろ。
ちらかした書類を片付ける事ぐらいすぐに察して動けよへっぽこ事務員。
ほわほわし過ぎな小松田に呆れを抱きながら短く片付けましょうと声をかける。
そうすればああ、と頷いて彼も屈んで整理を始めた。

「ばらけてるのはどうします?」
「適当にまとめてくれればいいよー」
「いいんですか?」
「うん、大丈夫大丈夫〜」
「…誰か他の事務員さんとかいないですかね?」
「えー?何で?」

あんたが信用ならないからだよ!
とは流石に言えず、挨拶したいのでとだけ言えば小松田はそっかあとすぐに納得した。
だからそんなあっさり不審者の言う事に納得するなってば。
ますます信用ならない小松田に愛想笑いを向けながら、早く他の事務員なり先生なりが来てこの人が散らかした書類をなんとかしてくれないかなーとぼんやり考えるのだった。


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