私は感動していた。
何にって、食堂のおばちゃんの料理に。
本日のメニューは白米、大根の味噌汁、鮭の塩焼き、ほうれん草の胡麻和え、卵焼き、漬け物という朝から充実したもので、どれもこれもさいっこうに美味しかった。
特にほうれん草の胡麻和えの甘じょっぱさが神がかって絶妙。
これほどまでに美味しい胡麻和えを食べたのは初めてだ。
もの凄く感動して黙々と食べていたら食満が空気を読んでほうれん草の胡麻和えをくれたので、それもぺろりと平らげてしまった。
やばい、これは食堂のおばちゃんに惚れそうだ。

「はあ…満腹…幸せ…」
「それは良かったです」

にこにこしながら向かいに座る食満が言って、私に新たなお茶をいれてくれる。
何だこいつ、さっきの胡麻和えといい素晴らしく気が回るな…。
これがまだ15歳だという事実に戦慄を覚えつつ、お礼を言ってお茶をすする。
うん、美味い。

「何か悪いね、世話やかせちゃって」
「いえ、名前のためならこれぐらい…」

照れながらそう言われ、なんだかなあとため息をつきたくなる。
まあ訂正しようとしても無駄だし、私の外出が成功すれば今日でこれも終わりだし放っておこう。
上手く外に出られるといいなあ。
まあ小松田さんという忍たま界最大のドジっ子なら簡単に口車に乗せられる気がする。
唸れ、私のトーク術!

…あ、事務室の場所ってどこだろう。

「あのさ、食満くん」
「はい、何ですか?」
「事務室ってどこかな。私今日から事務室で働く事になってるんだよね」
「ご案内します!」
「いや君は授業があるでしょうよ。そろそろじゃないの?」
「…それはそうですが…」
「じゃあ授業出なよ。大体の場所教えてくれれば何とかするし」

危ない危ない、初っぱなから天女に現を抜かして授業をサボる食満先輩の図が出来上がるとこだった。
それはつまり死亡フラグを着々と建設する事になる。
私は一級フラグ建築士になりたくはない。
恋愛のフラグなら喜んでなるが、死亡フラグの建築士なんて死んでもなりたくない。
いや死んだらそりゃ死亡フラグなんて建設できないけど。

ってそんな事はどうでもいいんだ。
そろそろ事務室目指さないと業務開始時間になる気がする。
食堂にいる忍たま達も少なくなってきたし早く向かうべきだろう。
初日から遅刻とかありえない。

「で、どこなの?」
「学園は広いですから迷わないで下さいね」

そう前置きした食満からだいたいの位置を教わり、早々に食堂を立ち去る。
途中で名残惜しそうな食満と別れ、教わった方向に進めば職員がちらほらいる辺りまで無事に到着した。
…視線が痛いぜちくしょう。
まあさっきまでいた食堂でも好奇の目にさらされて辛かったんだけどね、実は。
それでも食満が一緒だったからまだ平気だった。
…何この食満との恋愛ED迎えそうなモノローグ。
ため息をつきつつ視線を無視して事務室を探していたらあんまり会いたくない姿を見つけてしまった。
土井半助。
見事に天女チャームにかかっている患者さんの一人である。

「名字さん!おはようございます」
「…おはようございます」
「良かった、部屋に迎えにいったんですが姿が見つからなくて探していたんですよ」
「え、それはすみません」

なんと、迎えに来てくれてたとは…。
まあそうだよな、食満が来なきゃ食堂の場所も事務室の場所も分からなかったんだし、普通に考えたら案内してくれるよなあ…。

「朝、六年生の食満くんという子に会って、食堂まで案内して貰ったんです。お手数かけて申し訳ありませんでした」
「いえ、あなたのためならこれぐらい…」

ワオ、デジャブを感じるね!
とりあえず曖昧に笑って誤魔化し、事務室の場所を聞き出す事で話題の転換をする。
あっさりそちらに意識を切り替えてくれた土井先生は事務室まで案内してくれた。
案内のお礼を言って別れたあと、私は事務室の前で気合いをいれる。
よし、頑張って仕事をこなして更にお使いに行くという目的を果たすぞ!おー!
心の中で拳を振り上げて気合い充分。
事務室の戸をからりと引いて足を踏み入れようとした私が目にしたのは、段ボール一杯分くらいは軽くありそうな量の書類が吹っ飛ぶ瞬間だった。


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