「何をやってるんですか小松田くん!」

そんな怒鳴り声が部屋に響いたのは小松田が散らかした書類をとりあえず一カ所に集め終えた頃だった。
声のした方、つまり入り口を見るとなんとも表現しづらい顔立ちのおっさんが立っていて、一瞬呆けてしまう。
確かこの人は…吉野先生だった、かな?
サブキャラまで把握するほど忍たまに詳しくないので自信はないけど、この顔に見覚えがあった。
あと毎回小松田を怒鳴っている役回りなのも知っている。
道具管理主任というよりは小松田管理主任というのが適切な表現じゃなかろうか。
…うわあ、かわいそう。

「また書類をぐちゃぐちゃにして!何度言えば君のドジは治るんですか!」
「すみませーん」

気の抜ける小松田の謝罪を横目に、私は吉野先生の日頃の苦労を感じ取って労いの念を抱く。
この人も胃薬を常用してそうだ。
私なら小松田をクビにしろと学園長に訴えている。
聞き入れて貰えなかったら速攻やめるだろう。
こんな奴と仕事をするなんて私の常識が無理だと言っているし。

…しまった、これからこんな奴と仕事をしなきゃならないんだった。
他人ごとのように考えていた事が我が身に降り懸かっていたという事実に気が重くなる。
吉野先生とはいい酒が飲めるようになりそうだ。
ただし天女補正がない場合に限る。

それはともかく小松田を叱りつけている吉野先生に挨拶をしなければならない。
さらりと存在をスルーされてるけど、このままぼんやりしていてもしょうがないし。

「あのー、お話中に申し訳ありませんが、ご挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん?ああ、すみませんね。学園長先生から伺っています。私は道具管理主任の吉野です」

吉野先生が笑顔で名乗ってくれ、どうやら私の記憶が確かだったらしい事を知る。
やけに彼がにこやかなのは私が何者なのか探る為か、それとも天女補正に引っかかっている為か。
どちらなのか判断がつかないし、警戒は忘れないようにしよう。
そんな事を考えながら私も笑顔で名乗り、よろしくお願いしますと頭を下げておく。

「ところで吉野先生、この書類…あの、大変言いにくいんですけど、小松田さんの指示で適当に集めてしまいました。整理し直しが必要ではないかと思うんですが…」

一応、私が悪い訳じゃないというアピールをして、お伺いをたてれば吉野先生はひくりと口元を引きつらせた。
どうやら怒りはまだ収まっていないらしく、ぎろりと小松田を睨みつける。
ううむ、私も失敗しないように気を付けよう。

「書類の整理は私がやっておきます。名字くんは小松田くんと一緒に学園へ来られるお客様の対応をお願いします」
「お客様…あの、私がそんな重要なお役目を引き受けて大丈夫でしょうか?」
「小松田くんもいるし大丈夫でしょう。分からない事があれば彼に聞いて下さい」

そ、そんな!不安過ぎる!
とは言え吉野先生からしてみればこんな怪しい女に書類を触らせる訳にいかないだろうし、ついでに言えばここに小松田を置いておくとかえって仕事が増えるから追い払いたいという事だろう。
ならば私に出来るのは吉野先生の胃の負担を少しでも早く減らす為に速やかに小松田を連れ出す事だ。
そうだ、ついでに門前の掃除をしておこう。
それならわざわざ用事を作らずとも自然に学園の外へ出れるし、本当にお客様が来るなら掃除をするに越した事はない。

「吉野先生、でしたら門前の掃除をしてしまいますのでほうきを貸して頂けますか」
「…!君はよく気が回りますね。小松田くんとは大違いだ」

これぐらいで感心されてしまうぐらい小松田は役に立たないようだ。
当の小松田と言えば吉野先生の言葉も気にせず出入門の台紙を用意している。
少しは気にしろへっぽこ事務員。
小松田を心の中で罵倒しつつ、吉野先生からほうきのある場所を教えてもらって事務室を後にする。

さて、天女補正、これであっさり解除だやっほーう!


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