ちゃっちゃか着替えを済ませて部屋の外に出るとそこには食満がいた。
おいまだいたのかお前。
何度も言うけど気持ち悪い。

「…まだ何か?」
「食堂までご案内しようかと!」
「食堂…」
「学園内の施設はまだ把握されていないでしょう?」

ドヤァッとしながらそう言ってくる食満をぶん殴りたい衝動を抑えつつ、食堂の場所が分からないのは確かなので堪える事にする。
朝食を食いっぱぐれるのはいただけない。
だって折角「あの」食堂のおばちゃんの料理が食べられるのだ。
実は昨日からけっこう楽しみにしていたりする。
我ながらお気楽だなあと思うけど、それぐらいの楽しみがなくちゃこのよく分からない事態を乗り越えられる筈がない。
ちなみに食堂のお手伝いは事務仕事に慣れてきたら開始なので、けっして寝坊した訳じゃないと明記しておく。

「あー…まあいいか、じゃあ案内よろしく頼むよ」
「はい、お任せ下さい天女さま!」
「…あのさあ、それ止めてくれないかな」
「それ?」
「そのうっとうしい口調と、天女さま呼び。私は天女なんかじゃないし、名字名前って名前があるんだけど」

ため息をつきながらそう言えば食満は呆気にとられた表情で私をまじまじと見る。
何だこの野郎。
何か文句でもあんのか。
心の中で喧嘩腰になりながら食満を睨み付けると慌てたように食満が口を開いた。

「あ、あの、それは名前をお呼びしてもいいという事でしょうか?」
「そ。あと敬語やめて欲しいって事」
「!!!」

困惑した表情を驚きの表情に変え、更に顔を赤くしたのち青くして、最後にめちゃくちゃ照れ顔で名前、と小さく呟いて黙り込む。

…よし、イケメン爆発しろ。
天女補正のせいだと分かっていてもときめくじゃないかちくしょう!
はっきり言ってこの調子でもてはやされたら落ちない自信はない。
世の女子が食満にきゃあきゃあ騒ぐ理由がちょっと分かった気がするわ。
悔しい気持ちを抑えながら早く案内するよう促すと、食満はいい笑顔ではいっ!と返事をした。

うう、なんだかなあ。
本来なら無茶苦茶警戒されて睨まれて脅されるのが当然の反応だろうに…いやもちろんそうなって欲しい訳じゃないけど、どうにも申し訳なさを感じてしまう。
いや私が悪い訳でもないんだけどさ。
すべては神様が暇してるせいだ。

「名前、は好きな食べ物はなんですか?」

食満はまだ照れがあるらしく私の名前を呼んだあとにちょっと間を開けたが、気にしない事にして好きな食べ物について考える。
好きな食べ物ねえ…。

「ハンバーグとか?最近は豆腐ハンバーグにハマってる。あと敬語やめて」
「は、はい…いや、ああ、気を付ける…申し訳ありません、慣れるまで時間がかりそうです」
「うん、まあぼちぼち頼むよ」

天女とか呼ばれないだけまだマシだと思おう。
天女なんて呼ばれてたらあいつ調子乗ってやがるとか思われる度合いが増す気がする。
自分で死亡時期を早めるつもりはない。

「今日のご飯はなんだろうねえ」
「豆腐ハンバーグだといいですね!」

…いや、朝から豆腐ハンバーグはキツいだろ。
そう心の中でツッコミつつ、曖昧に笑って誤魔化しておく事にした。


list


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -