翌日、目が覚めると私のすぐそばに目つきの悪い男が無言で座っていた。
何これマジ怖い。

「…何してるんですか?」
「俺は六年は組の食満留三郎です」

もちろん知っている。
だって食満留三郎と言えば天女様を受け止める役候補ナンバーワンだ。
きっと私も彼に受け止められたに違いない。

「天女様が空より降りて来られた時、恐れながら受け止める役目を賜りました」

ほらねー!!!
ていうかやたら丁寧だな食満留三郎!
賜ったとか生で聞いたの初めてだよ…。
いやまあそれはともかくここに来て二日目だってのにさっそく天女チャームにかかってるとか…もう少し警戒期間長くていいんじゃないだろうか。
世の中に出回ってる夢小説だったら少なくとも三、四日ぐらいは警戒している筈だ。
自分が神様から与えられた特殊能力のせいだとは分かってるけど憤りを感じずにはいられない。
もっと抗えよ!お前なら出来る!
私が全力で応援するからお前の本当の力を見せてみろ!
…いや、食満の本当の実力なんてまったく知らんけど。

うん、それよりそもそも話がずれまくっている。
私は食満が人の真横で正座待機してたのはなんでかを知りたかったし、聞いた筈だ。
だれも名乗れとか私との関係性について説明せよとは言っていない。

「あー…ええと、食満くん?君は何故私の部屋に勝手に侵入してるのかな?」
「はいっ!天女さまの寝顔を拝見したく、恐れ多くもお邪魔致しました!」

え、何かちょっと意味分かんないですー。
何でそんな爽やかにそんな気持ち悪い事言ってんの?
まさか爽やかに言えば許されるとでも思ってんの?
イケメンだから?イケメンの自覚があるから?
だとすればいくらイケメンだからって許される事と許されない事がある事を知れ!

「よし、消えろ食満」
「えっ!」
「女の部屋に無断で堂々と侵入する輩に情状酌量の余地はない!」
「て、天女さま…」

ふっふっふ、憧れの天女さまにこんな風に言われれば少しは目も覚めるだろう!
如何に天女補正があろうとも女からこんな風に扱われてなお崇める奴がいる筈が、

「天女さま…その威厳ある物言い…素敵です…!」

いたー!?
まさか普通に受け入れるとは…お、恐ろしい!
天女補正恐ろしいマジで!
しかもなんかちょっとうっとりした目でこっち見てくるんですけど!
気持ち悪っ!

「…出てけアホ!」
「おわっ!?」

心酔、という言葉がぴったり当てはまりそうな食満をげしげし蹴り出して思いっきり障子を閉める。
スパン!と良い音と共に食満の天女さま!とか叫ぶ声が聞こえたけど、無視を決め込んだ。

…ふう、朝から嫌な思いしたぜ。
今夜からはつっかえ棒とかで開かないようにしよう。
じゃないと何か貞操の危機的なものを感じる。
相手はたまごとはいえ忍者だし、障子を塞いだところでどこまで効果があるか分からないけど。

うーん、それにしても予想より天女の力は強力なようだ。
高圧的な発言さえ肯定されちゃったし、昨日の土井先生の様子から察するに教師陣にまで効果が及んでいる。
この分じゃ何を言っても何をしても天女だというだけで許されて肯定されそうでぞっとするわ。
私としては天女さま無いわーってなって距離を置いていただけるとありがたいんだけど。

「…とりあえず、着替えるか」

もし天井裏に何者かが潜んでたりしたらどうしよう。
人生で一度もした事がない不安を感じつつ、今日中にどこかへお使いに出して貰えるように仕向けてとっとと天女補正を解除しようと決意するのだった。


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