善法寺伊作は私が初めて出会った忍たまで、一言も言葉を交わさない内から優しく甘くとろけるような笑みを私に向けてきた天女補正の被害者第一号さんである。
私はそんな善法寺に心底ぞっとし、恐怖心からなるべく関わらないようにしようと心に決めていた。
実際、ここに来てから最初に会った時以外は会話をしていない。
見かけてもすぐに隠れて見つからないようにしていたのだ。

だけど今日だけは善法寺を見た瞬間、自分から寄っていって声をかける事にした。
遠目で見る限りはいつも通りに見えるけど昨日あんな事があったあとだ。
昨日は特に問題なしと言われたようだったけど、もしかしたら今日になって異常がでているかもしれない。
この世界は精密検査がある訳じゃないし、触診のみでは分からない何かがあったかも…そう考えたら確認せずにはいられなかったのだ。

「善法寺くん!」
「天女さま!おはようございます!」
「おはよう。体調はどう?どこか痛いとこはない?気持ち悪さとかは?」
「天女さま…僕の心配をして下さったんですか?ありがとうございます」
「うんまあ…大丈夫?」
「はい。お恥ずかしい話ですが慣れていますから」

照れくさそうにそう言って笑う善法寺に無理をしている様子はなくほっとする。

「私が言う事じゃないけど無理はしないようにね。体調悪くなったらすぐに誰か言って」
「はい。…ありがとうございます」

心底嬉しそうにそう言って笑う善法寺をちょっと怖く思いながら私も笑みを返す。
さて、一応の無事は確認したし、これ以上一緒にいるのは私の精神衛生上よろしくない。
さっさと立ち去ろう。

「それじゃ、私そろそろ…」
「そんな、せっかくお会いできたのに急がなくてもいいじゃないですか」
「いや、ええと、ちょっと用事が…」

一刻も早くこの場から立ち去りたい一心でそう言った私の気持ちを一切汲む気がない善法寺は退避など許してはくれなかった。
奴はどこまでも優しい笑みでもって私の退路を塞いだのだ。

「僕もご一緒させて下さい。お部屋に戻られるのでしょう?」
「え?ええと、」
「いつも仕事が終わったあとは一度お部屋に戻られてから早めに食堂に向かわれますよね?是非、僕も一緒に」

何でお前が私の行動パターンを把握している…!
と、思ったけど食満と同室な時点ですぐに納得できる。
あれだけ私と故意に遭遇している食満なら私の行動パターンは当然把握しているだろうし、私の話を同室の善法寺にしていてもおかしくはない。
おかしくはないとか言ってるけど、そもそも食満が私の行動パターンを把握しているのが当然のようになっているのがおかしいというのは突っ込んではいけないところだろうか。
突っ込んだところでどうにもならないというのは分かっているので黙るしかないのだけど。

なんて、思考をどこかへやっている間に善法寺が紳士的に私の手を取り、行きましょうと微笑んでいた。
ちくしょうあほのは組じゃないのかお前は。
イケメンぶりやがって!
そんな事を考えながら初めて会った日のようにおとなしく善法寺に手を引かれているとあっという間に私の部屋へ辿り着く。
善法寺はここでお待ちしていますとにこにこ微笑んで私の部屋の戸を開けてくれた。

「…イケメンは爆発しろ」
「え?」
「イケメンは爆発しろ!」
「ええっ!?」
「何なの!?何でそんなイケメンなの!?私を殺したいのかそうなのか!怖い!イケメンの策略怖い!」
「えええ、あの天女さま落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられるか!こっちは心臓をクラッシュされてるんだ!」

叫ぶようにそう言えば善法寺は心底困った顔ですみません、と謝ってきて、瞬間的にかっとなっただけだった私はなんだか恥ずかしくなってしまう。
なんだよイケメンの策略とか。
アホじゃないのか自分。

「…あー、ええと、ごめん」
「い、いえ、お気になさらないで下さい。きっとお疲れなんですよ」

くそう、善法寺の優しさが身にしみる…。

「…その、やっぱりちょっと一人になりたいから、ご飯はまた今度一緒に食べようか」
「はい、お疲れなのに申し訳ありませんでした。また今度、必ずご一緒させて下さいね」

にっこり笑った善法寺に曖昧に笑みを返して部屋に入り、失礼しますと頭を下げて立ち去る善法寺を見送りながらため息をついた。

…善法寺と一緒にお食事をする機会が巡って来ない事を切実に、祈る。


list


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -