「初めまして!俺、竹谷八左ヱ門と言います!」

にかっと爽やかに笑みを浮かべた竹谷に名字名前です、とだけ返す。
いつもならここで天女じゃないですよーとアピールするのだが、来た時の慌てっぷりからすると何か緊急の用事があるみたいだし、とりあえずそれは後回しにしよう。

「慌ててたけどどうかしたの?」
「あっ、そうだった!雷蔵、大変なんだ!さっき七松先輩が図書室にバレーボールをぶつけちまったらしくて、図書室の本棚が全部倒れてしかもそこに運悪く善法寺伊作先輩が居合わせて埋もれてるらしいんだ!救助を手伝ってくれ!」
「ええっ!?そ、それは大変だ!」
「大惨事にも程があるねそれ…」

しかしそんな滅多にないだろう出来事に巻き込まれてるとは…流石は善法寺。
不運スキルハンパない。
全然羨ましくないスキルだけど。

「あ、でも、名字さんとの話の途中なんだった!」
「いやいや、別に悩み相談ぐらい仕事中じゃなきゃいつでも受け付けるからいってらっしゃい」
「え、でも…」
「いいから行きなよ。善法寺くんと本が大変な事になる前に」
「でも…」
「大丈夫、ほんとに気にしなくていいから」
「うう、でも…」
「ああもう!でもでもうるさいな!気にすんなって言ってんでしょうが!そんなに気になるなら私も一緒に行く!ほら早く案内して!」

あまりにもしつこい不破にイラッとしてがっとまくし立てれば、不破はびっくりしたようにはいっ!と返事をして走り出す。
それに従って走り出した竹谷がおほー天女さまかっけーとか言ってたけど無視しておいた。
しかしおほーってほんとに言うんだな、竹谷。
どうでもいい事に感激しつつ、私のスピードに合わせながら走ってくれる二人について図書室へ。
さり気なくこういう気遣いができる辺り、なかなか見所のある二人だ。

そんな事に感心しながらたどり着いた図書室はなかなかの人だかりで、目立つのはなるべく避けたい身としてはそれを見ただけでげんなりしてしまう。
ああやっぱりついてこなきゃ良かった…。
早速そんな後悔をしつつ図書室を二人と一緒に覗き込めば、そこにはごっちゃごちゃになった本で溢れかえっていた。
うわあ本気で大惨事だ。
ていうかこれ、善法寺生きてんの?

「これ…善法寺先輩生きてんのかな…?」

同じ事を思ったらしい竹谷が顔を青くしながら呟いて、ごくりと唾を飲み込む。
不破も同じように顔を青くしていて、どうしたものか決めあぐねているらしい。
というかこの場にいる全員がこの大惨事にどうしたらいいのか呆然としている。

「…とりあえず、手前の本から協力して運び出そうよ。あと誰か先生は呼んだ?」
「あ、さっき俺に知らせにきた乱太郎が先生のとこも行ってます」
「じゃあ私たちだけで先に始めてよう」

そう言いながら手前の本をとりあえず手にして図書室の外の廊下に積み始めると、竹谷と不破も頷いてそれに習う。
そうすれば近くにいた他の忍たまたちも私たちが積みあげていく本を邪魔にならない位置に運び始めた。
しばらくその作業を続ければ入り口近くが開け作業出来る人数も増えていって、どんどん図書室内のスペースは広くなっていく。
けれど、作業を進めてもなかなか善法寺の姿が出てこない。
いったいどの辺りで埋もれているのか…本気で生死が心配だ。

「善法寺先輩ー!いたら返事して下さーい!」
「善法寺先輩どこですかー!?」

そんな風に呼びかけても善法寺の返事はない。
ただ気を失ってるだけならいいけど頭を打ったりしていたら…そんな嫌な想像を巡らせていると、どこかから微かに唸る声が聞こえてくる。
だけどその声がどこからなのか分からない。
竹谷たちも気付いて耳を澄ませるけど、声が聞こえたのは一回だけでもう次は聞こえてこないようだった。

「善法寺先輩!返事して下さい!」
「目を覚まして下さい!」

その場にいる生徒が大きな声で呼びかけるけど、善法寺の声はやっぱり聞こえて来ない。
ま、まさか…ほんとに、死んだりしてない、よね…?
さっきの唸る声が善法寺の断末魔だったり…。
未だに積み重なる図書室の本と本棚に埋もれ、血まみれで倒れる善法寺…という最悪の図が頭に浮かんで、ぞっとする。
忍たまは子ども向けのほのぼのアニメだからそれはない…そう思っていたけど、絶対にないなんて言い切れないのだ。

「…ぜ、善法寺…」

そこまで詳しくないとはいえ、キャラをある程度把握するぐらいには忍たまに興味があった。
だから画面に映る善法寺伊作を知っていたし、不運だけどいいお兄さん的存在だなぐらいには思っていた。
天女チャームさえなければ仲良くしたかったなとも思っていたのだ。
そんなキャラがまさか、死ぬ、なんて、そんな。

「へ、返事を…」

声が震える。
いや、声だけじゃない。
人が死ぬかもしれない恐怖で体全体が震えていた。
だけど、それでも、もしかしたら。
私の、天女の声になら、反応するかもしれない。

「返事を…今すぐ返事をしなさい善法寺伊作っ!!!」
「は、はいっ!」
「え、」

…へ、返事…した…?

「善法寺先輩!どこら辺ですかー!?」
「あ、あれっ!?う、動けない…!?」
「あそこだ!あそこが動いたぞ!」
「…は、はは……生きてた…」

がくり、その場で座り込むと、何だか笑いがもれてくる。
ていうかもう、何だよその気の抜ける反応は。
心配して損したわ馬鹿野郎…。

「よし!先輩を救出したぞー!」
「善法寺先輩お怪我は!?」
「打ち身ぐらいであとは何とか…」

救い出されて苦笑を浮かべる善法寺に安堵のため息をつくと、いつの間に隣に来たのか土井先生がぽんと私の頭に手を置いてお疲れさまでした、と微笑んでいた。
ええ本当に。
そう思ったけれど、とりあえず今は善法寺の無事を噛み締める事に決めて、私は土井先生に笑みを返すのだった。


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