威圧感ハンパねえ。
中在家長次に対する私の感想はまずそれだった。
ただ黙ってそこに座っているだけで凄まじいオーラを感じるのは私だけじゃないだろう。
実際、小松田くんと私、そして中在家長次の三人で気まずすぎる早い夕食を食べている間、食堂に後からやってきた他の忍たまたちも全然近寄って来なかった。
いや、もしかしたら天女と小松田くんと中在家という謎な組み合わせに戸惑っていただけかもしれないけど。

それにしても小松田くん…なんでよりによって中在家をチョイスしたんだ…。
一番関わりたくない六年生でしかもその中でも会話が成立すると思えない中在家って…なんかほら、他に選択肢なかったの?
しかも気まずさマックスの私を置いて小松田くんは勉強頑張って!と言って去ってしまった。
まさかの事態に呆然とする私をよそに中在家はもそもそと何かを喋ったあと、すたすたと歩き出してしまったため仕方なくあとをついて歩いている。

どこに移動しているのか分からないが、中在家についていかない訳にもいかない。
あるかどうかは分からないがもし私がここで勝手に立ち去ればわざわざ中在家に頼んでくれた小松田くんの面子を潰す事になるからだ。
確かに字や常識を覚えないといけないとは思っていたけど、それなら小松田くんとか吉野先生とかに教わりたかった。
…いや、小松田くんはないかな、うん。

と、考えているうちに目的の場所に辿り着いたらしい。
中在家がようやく歩みを止めてからりと引き戸を開いて中へ促された。
促されるまま中に入るとどうやらそこは図書室らしい。
紙のにおいと静寂に満たされた図書室は少し薄暗く不思議な雰囲気を放っている。
戸惑いつつも机のあるところまで進めば手で座るように指示された。
それにも素直に従えば中在家がろうそくに火を灯して反対側に腰を下ろす。
ぼんやりとろうそくの火に浮かび上がる中在家はまるで怪談話を始めるかのようでちょっとばかり恐怖に駆られたが、まさか言える訳がないので黙っておく。

「…もそ」
「えっ?な、何?」
「……まずは、名字の時代について知りたい」
「私の時代について?」
「…そう、それが分からなければ、何を教えればいいのか分からない」

こくり、頷いた中在家にどうやって答えたものか迷う。
私の時代について、と言っても範囲が広すぎて説明しにくいのだ。
まあそれは中在家も同じだから私に聞いて来たんだろうけど。

「うーんと、大きい範囲から行くと、日本はここと違ってひとつに統治されてるんだよね」
「ひとつに…?」
「そう、国会っていうのがあって、そこで国民に選ばれた国会議員っていう人達がいろんな取り決めをしてて…」
「…政を行う」
「そう!ええと、それで…」

と、そんな調子で意外にも聞き上手な中在家になんとか私が住んでいた時代の事、それからこの時代の知識をどの程度持っているのかを話終える頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
気付かない内に結構な時間が経過していたらしいと知って、付き合わせてしまった中在家に申し訳なく思う。
それでも嫌な顔…というか最初からのむすりとした表情を変える事なく中在家が相槌を打ってくれたので、なんだかすっきりした気分だ。
変に天女さまとか言って祭り上げて来ないから余計に気持ち良く話せたんだろうか。

「…名字」
「うん?」
「…これだけ違う世界に来たんだ、不安な事も多いだろう」
「…うん」
「何かあったら、力になる」

やっぱり表情を変えないまま言った中在家にありがとうと頷いて笑いかければ、中在家も静かに頷き返してくれた。
小松田くんといい中在家といい、なんて優しいんだろう。
じんわり染み渡るような二人の優しさに心が暖かくなる。

「それじゃあこれからご指導の程、よろしくお願いします、中在家先生」
「…もそ」

おどけて頭を下げた私に小さく何かを呟いた中在家の言葉は聞き取れなかったけれど、きっとよろしくと返してくれたのだと、そう思う。


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