心臓に悪い立花仙蔵から逃走した私は特にやる事もなく庭をぶらぶらと散策していた。
本当はこんないかにもレギュラーキャラがいそうな場所には来たくなかったのだが、生憎私の部屋近くに佇む食満を見つけたので部屋に戻るという選択肢は消えてしまった。
そうなると他に行くところなどない私はなるべく人の気配がないところに移動するしかない。
そしてその人が少ないところというのが思いつく限りでこの庭しかなかったのだ。
しかし少ないとはいえ、ギンギンに忍者してる人とか蛸壷をせっせと掘ってる人とかあるいはその蛸壷に落っこちてる人とか。
そんなのが彷徨いている可能性を考えて警戒は怠らない。
いや警戒したところで忍者のたまごから逃げられるとは思わないけど。

それにしても今はいったい何時ぐらいなんだろう。
昔の時間の数え方なんか分からないし、時計に頼ってるせいで体内時計も発達してない。
これで食堂が開いてる時間を逃して夕飯を食べ損ねたらどうしよう。
普通に泣くかもしれない。
ああ今日の夕飯は何なのか気になる…良い匂いしてたなあ…。

ふう、と夕飯に思いを馳せてため息をついていると、すぐ近くの茂みがガサガサ鳴っているのを発見してしまった。
お、おい…まさかヘビじゃないだろうな?
あるいは逃げ出した毒虫とか獣とか…。
どうしよう、逃げるべきだろうか。
でも逃げ出した瞬間に後ろから襲いかかられる可能性もある。
と、とりあえず後ずさりして距離をとるべき?
混乱する頭で一応答えを出し、一歩後ろに下がった、瞬間。

「あっ天女の人だ」
「ヒイッ!?」

背後からいきなり声をかけられ、驚き過ぎて引きつった声を出し、あまつさえ振り返ってから後ずさりを決めてしまった。
…そう、ガサガサ音が鳴っていた茂みへ向かって。

「うわっ!?」
「うわあああああっ!?」
「だっ、誰だお前!」
「あああ良かった人だったー!」

私が勢いよく突っ込んだ茂みの中でガサガサやっていたのはヘビでも毒虫でも獣でもなく、決断力のある迷子でした。
良かった毒のある奴に噛まれたりしなくて!
…いや待て何故こいつは茂みの中に?

「あれ、左門じゃん。何やってんのお前」
「おお三之助!僕は食堂に行くところだ!」
「何言ってるんだ食堂はあっちだろ?」
「どっちもちげえよ!ていうかなんで茂みに入って食堂に行けると思ったの!?理解出来ない!」

安定の迷子過ぎてびっくりするわ!
ツッコミをいれてやれば、迷子二人は首を傾げておかしいなあと声を揃えた。
これは保護者役の苦労が偲ばれる。
もし会う機会があったら労ってあげたいレベルだ。

おっと、それはともかくとして恒例の天女じゃないよアピールをしておかなければ。
三年生なら天女補正効いてない可能性があるし、あの人は普通に良い人で上級生を惑わせる気なんか一切ないんですよといつか現れるかもしれない傍観夢主に言ってくれるかもしれないし。
…この迷子二人の言葉に信憑性があるかないかは置いておくとして。

「ええと、そこの君、さっき私を天女とか言ってたけど、私は天女じゃないし名字名前という名前があるので呼ぶときは名前でよろしく頼むよ」
「この人が噂の天女だったのか!」
「あんまり天女っぽくないよなー」
「えっちょっと聞いてる?今天女じゃないよって言ったよね?」
「確かに僕が考えていた天女とは違う気がするぞ」
「羽衣も持ってないしな」
「お前らちょっと話聞けや」

フリーダムに程があるぞ迷子ども!
天女じゃないって言った矢先に天女トークかますんじゃないよバカ!
なんだか本格的に保護者役が可哀想になってきた…。
私ならこんな奴ら関わらないようにする。
迷子になっても絶対放置するよ。
相手にすればするだけストレスたまってくのは予想がつくし。
だってたったこれだけのやり取りでイラつきが抑えられなくなりそうだ。

…しかしここで諦める訳にはいかない。
一人でも多くの味方…いや、この際敵じゃなければいい。
とにかくそんな存在を増やしておかなければ私の命に関わるのだ。
よし、気合いを入れてもう一度アピールしておこう。

「あのね、だから私は天女じゃないんだけど」
「僕は神崎左門だ!」
「俺は次屋三之助」
「…私は名字名前です」
「そうか、じゃあ食堂に行くぞ天女さま!」
「天女さまも飯食ってないのか?」
「とりあえずお前らそこに正座しろ」

ああもう会話にならねえよちくしょう!
頼むから早く来い保護者役っ!!!


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