結論から言うと私が学園の外に出る事は出来なかった。
あれ以降、まったくチャンスがなかったのだ。
お使いとかないか聞いてみたけどあっさりないと言われてしまって無理だった。
誰だ小松田ぐらい軽く口車に乗せられるとか言った奴。

はあ、とため息をつきながら食堂へ向かう。
気は重たいままだが腹が減っては戦が出来ぬとも言うし、とにかくご飯を食べよう。
おばちゃんが作るご飯が今現在の唯一の楽しみな訳だし。
今日の夕飯は何だろう。
なんならもう一度あの素晴らしい胡麻和えでもいい。
あの胡麻和えは本当に美味しかった…。
味わった感動を思い返しながら食堂にたどり着き、入り口にかけられたのれんをくぐればそこはにはサラストがいました。
最ッ悪!

「…っ!天女さま!」

しかもデカい声で天女とか言いやがったよこいつマジなんなの馬鹿野郎!
心中で罵倒して、失礼しましたと笑顔で退場。
夕食には早い時間だと思ったから来たのに計算違いだったらしい。
食堂に大勢いたし室町時代の時間感覚よく分からん。
今度誰かに聞いてみようと考えつつ来た道を戻っているとつい数分前に聞いた声で天女さま!と呼ばれた。
だからデカい声を出すんじゃないよこのサラストめ。

「お待ち下さい天女さま!」
「最初に言っておく。私は天女なんかじゃない」
「え?ですが…」
「天女ではありません。私は名字名前です」
「しかし空から…」
「私は名字名前です」

しつこく私を天女にしたがるサラストもとい立花仙蔵に対し、私も私でしつこく否定を続ければ立花は静かに頷いて名字さんと呟いた。
それに私も頷き返す。
最初から素直にそうしときゃ良かったんだよ馬鹿がという気持ちは心の奥にそっとしまって。

「それで?私に何か用?」
「いえ、あの…お体の調子はどうですか?」
「特に問題ないけど…あのさ、出来れば敬語も止めない?」
「え?」
「さっきも言ったけど私は天女じゃないし、君たちの認識はともかくとして本当に敬われるような存在じゃないんだよね」

だから止めて欲しい、そう言えば立花は少しぽかんとしたあと、ふっと笑みを浮かべた。
うわ、綺麗に笑うなあ。
立花の笑みにちょっとばかりどきりとしていると、意外にも分かりましたという答えが返ってきた。

「あなたが言うように私はあなたを天女だと思っています。きっとその認識は変えられない。ですがあなたが望むなら私は私の全力を以てあなたの望みに応えましょう。…私は立花仙蔵だ。これからよろしく頼む、名前」

…何なのこの15歳!
さらりと世の乙女がきゃあきゃあ言いそうなセリフを吐いて微笑まれたら流石にときめくっつーの!
何という男前!
もう嫌だ天女補正ってほんと心臓に悪い!
そしてキャラ達にときめく度に死亡フラグがガツンと立っている気がして怖い!
早くこの場を離れたい!

「あー、ええと、よろしく。それじゃ、私はもう行くから」
「待て、お前は夕食を食べに来たのだろう?ならば何故急にきびすを返したのだ」
「いや、ほら何か人がいっぱいいたからさ」
「…ああ、注目を集めたくないのか。だとすればすまない。お前に会えたのが嬉しくて先ほどはつい大声を出してしまった」

ぎっやああああああ!!!!!
何っ!?何なのこいつ!?
私を照れ死にさせたいのか!?
そうなのか!?
さらっと口説き文句を口にしてくるから対応に困るわ馬鹿野郎!!!

ひいひい心の中で泣きながら思わず後ずさりしてしまう。
真面目に怖い。
こいつは何かこう、近付いちゃいけない感じがする。

「気にしないでいいから!それじゃ!」
「あっ、おい!」

走り去れば呼び止める声はするものの、追いかけてはこなくてほっとする。
それでもしばらく駆け足で廊下を進み、何回か曲がり角を曲がったところでひと息ついた。
…いや、なんか、あいつ無理。
食満は簡単にあしらえる気がするのに、立花はいつの間にか向こうのペースになって丸め込まれる気がする。
流石はS法委員会委員長。
もう二人きりにならないように気を付けよう!
そう決意して拳を握りしめた私のお腹がぐうと鳴って、がっくりうなだれるのだった。


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