惹かれるものは離れてる
引き合う力試されてるように
差し伸ばされた手と白い泡光
もがいてた水の底から見えた
わからない"不思議"というくらいしか
水面が世界を分つように
それに名前がついたら
たちまち”分かって"しまうの?
二人の世界冷たく浸す透明な水の中
生きようって決めた 生に惑う心が苦しいから
負けそうになる 逃げようとすればするほど
沈んでいく溺れていく呼吸が苦しい
曲の二番に当たる部分が終わり、間奏に入っても観客の手拍子は止まない。その途中、彼女が僕の方にやってきた。小さな唇がいつもより赤くて、白い耳たぶにはスカーフに合わせたのだろうか、緑の小さな石が飾られていた。
……今更ながら気づく。
『特別』という魔法 君と生きる魔法
僕と彼女しか知らないこの曲のリズムに、大勢のオーディエンスが手拍子でひとつになる。
曲の中でリズムは簡単に変わらない。そして変わらないリズムは少しだけ先の未来を予感させる。僕はそこに音楽特有の力を感じた。
『大切』という魔法 今日を生きる魔法
楽しい。生まれては消えてゆく”瞬間”の一粒一粒の美しさに陶酔する。
彼女がマイクを向ける仕草に合わせて観客からも歌声が聞こえてくる。その隣で僕もリズムに体を委ねる。
僕と彼女の曲が僕らだけのものではなくなる瞬間なのに、それがなぜだか心地よいと感じていた。
『ごめんね』はこのナイフで切り刻むよ
『好き』で君と離れるくらいなら
二秒間。僕の想いの丈をつぎ込んだ、永遠のような無音。
それは恐ろしいほど刺激的な刹那だった。
二人の世界を青く染める爽やかな風の中
愛そうって決めた 離さないよ例えば苦しいとき
引力に委ねてみて ほら自然と分かってくる
眠くなるのは疲れてるから
目に見えなくて不安でも
距離を超えて君を感じている
はあ、と官能的な彼女のため息がマイクを通して会場全体に、僕の耳に、開放された広い広いキャンパスに余韻を残す。
「……ありがとうございました」
広場の向こうの灰色の建物に反射したのか、彼女の声は二度三度とリフレインしてライブは終わった。
……“ライブは終わった”、そんな感想を抱く日が来るだなんて。