あかりがまぶしい
03
 大学のステージだからとあまり興味を持たずにいたけれど、近くで見ると骨組みのしっかりとしたステージだった。サングラスで眩しい夏の陽射しを遮った視界で、僕は周囲をせわしなく見回す。
「ここまでしなきゃだめ? どうせばれるでしょう」
「ばれるかどうかじゃなくてその瞬間僕が恥ずかしいから……」
 さほど長くもない髪の毛をまとめ鮮やかな緑のスカーフで器用に飾った彼女が僕に痛い視線をくれる。僕もあまり鏡を見ないようにしてこの舞台までやってきた。
「これでもちゃんと見繕って新品を買ってきたんだよ。それにほら、陽射しも眩しいし。……ね?」
「何が『ね?』よ」
 往生際の悪さも、視界が暗ければなんとなく和らぐような気がした。普段の僕のままステージに上がるなどということは想像もつかなくて、急遽目深にかぶれそうな夏用のニットキャップとサングラスをファッション店で購入した。何もかも昨日の話だ。
「これだけは勘弁してくれない?」
「いてっ」
 無理矢理剥がされたサングラスの、曲がったところが耳に引っかかって僕は悲鳴を上げる。
「こっちのほうがいいよ」
 そのまま彼女はサングラスを僕のシャツの胸元に引っ掛けた。にかりと笑う彼女の表情のいつにない柔らかさと振り向き様に見せたうなじは、まだ見たことのない彼女の一部だ。
 失われたかのように、言葉は何も出なかった。
「続いてのステージは、無名のバンドからの参戦です!」
 キャンパス内のあらゆる建物に反射してエコーがかった音響に、僕は眩暈さえ感じていた。
「ほら、出番」
「う、うん」
「準備、二分しかないんだから。ちゃんとしてよね」
 彼女の背中を追いかけるようにステージに上がった瞬間、うおぉ、という歓声が聞こえた。そちらを見なくてもわかる。同じ学科のやつらだ。なんでお前らがステージにいるんだよ、彼らが言いたいことをまとめればそんなところだろう。
 僕と彼女とで一曲ずつ選んだカバーと、オリジナル一曲。合計三曲のお披露目というのが僕たちに与えられた十三分の使い道だ。歌うのはもちろん彼女。僕は曲と曲を繋げるために後ろで機材をいじる。
 バレたくない、見られたくない、そんな思いを抱えたまま舞台に立つ。本当は舞台の裏とか袖とか見えないところで参加したかったけれど、彼女もまた舞台で一人になることを躊躇った。ステージで注目されるということはとても攻撃的な戦いだと思っていた。でもそんな弱気も、ひとたび曲が流れ出せば音符とともにはじけて消えていく。
 無駄なMCなどを一切入れない、歌だけに集中できるステージ構成だった。プロによる既存の曲を歌うだけなら、観客も盛り上がれる。順調な滑り出しと言えた。
 その盛り上がりに比例するように、三曲目を投げ出したくなる気持ちが大きくなる。
「次が最後の曲になります。聞いてください」
 ずっと観客に向かって歌い続けていた彼女がステージ後方、僕の方を振り返る。それは突然のことで彼女の背中しか見ていなかった僕は小さくえっ、と驚きの声を漏らす。
「……『U.G.』」
 それは耳元で愛を囁くかのような、甘い声だった。

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