僕たちの十三分はあっけなく燃え尽きた。広場のベンチに二人で腰掛け、解体されゆくステージを見つめ続けていた。頭に巻き付けていたスカーフはもう外されて、膝にきれいに畳まれている。
しばらく二人沈黙が続いていたけれど、彼女が思いついたようにこんなことを言い出した。
「私が君の作る曲が好きなのはね、」
あ、と思い出したように周囲を確認し、撤去作業で忙しそうにしているスタッフの姿を見つけるなり、僕に耳を貸すようにと手招きした。どうやら聞かれたくないらしい。
なんで好きかっていうとね、と彼女はもったいぶった。胸の逸りが止まらない。
「君の思いの詰まった言葉をそのまま口にできるから」
耳元でささやかれたその言葉は、夜の波とはまた違う響きで僕の全身をふるわせた。彼女はさらに続けた。
「君が歌詞も曲も全部作ってくれているのに、私が我が物顔で歌うの、最近耐えられないの。大切にしたいって思ってる。でもそれってどうやったら伝わるの? それがどうしてもわからなかった」
僕の耳元から顔を離し、彼女は自分のつま先をじっと見つめていた。
忘れないでほしい、と僕はつぶやくように口にした。
「忘れないでほしい。曲や歌詞を忘れそうになっても、その曲が君のためにあったことを忘れないでほしい」
きゅ、と手元のバンダナが握りしめられる。
「絶対失われないものなんてないんだと思う。だから大事なんじゃないかな。それをわかっている人が、何かを大切にできる人なんだよ、きっと」
きっといつか、君という存在は僕から"失われる"。
だから僕は君との時間を大切にしたいと思える。
「今日はゆっくり休もう。きっと明日、学科のやつらがうるさい」
今日のあの十三分で、少しだけ確かになった答えを見つけた。
僕は彼女に求めるもの、それは。
「……ふふ、そうね」
赤く染まる彼女の目の縁を照らす夕焼けが木々と鉄骨の隙間からこぼれて、広いキャンパスの遠くの方を燃やしているようだった。しかしそれも夕闇に沈んで辺りは嘘のように静かになる。
手を振って僕に背を向け離れていく彼女の背中に、僕は視線で語りかける。
僕は君に、一生分の刹那を求める。
そしてそれをかき集めて出来上がる君との時間を求める。
波のように常に形を持たなくても、砂の城のようにいつかは消えてしまうものだとしても、僕は君との時間を忘れない。
【了】