あかりがまぶしい
03
 南向きの窓から真っ直ぐに白い光の粒子が降り注いでいて、ちらつく雪の影が床にフワフワと薄い影を作っていた。部室はまだ冬の寒さを拭え切れない。

「ん、これはちょっと言いたい事が違うような……」

 原稿に取りかかってから二週間が過ぎた。つまり、締め切りが二週間後に歩み寄っていることでもある。

「うーん……」

 長期休暇中も、申請すれば部室は自由に使える。最近はもっぱら僕が独りでいるか、たまに今日のように陽瑞さんが顔を出す程度だ。窓も扉も閉め切って外の音を遮り、原稿に集中する。まだまだ雪が降り積もる二月だから、窓を開ければさすがに寒い。手がかじかんでキーボードが叩きにくくなるのはストレスだ。自由に使える部室が与えられているのだから、文句は言えないけれど。
 それにきっと、気温とか季節とかは問題じゃないんだろうなぁ……。

「だめだー」

 A4規格のワープロで書き進めた十行程度の文章を一気にデリートする。さっきから、いや、ここ数日ずっとこんな調子だ。保存してある三ページが書き上がってから、何も進んじゃいない。

「陽瑞さん、どんな感じ?」

 集中してるところ、本当に申し訳ないとは思う。でも気分転換で何か話していないと、何の意味も感情も持たない言葉達に頭を支配されて、僕の主人公はただ暗くて寒い砂漠の中を突っ立っているだけだと思った。

「それが……全然だめなんです」
「えっ、だって毎日あんなに沢山詠んでるじゃない」

 普通の会話と同じスピードで歌を詠む陽瑞さんらしからぬ発言に、僕は驚きを隠せなかった。

「そうですね……」

 はぁ、とこぼれたため息はたぶん無意識だ。

「確かに私はずっと、その場で歌ってそのままにしておくことを繰り返していました。自分の歌が活字になるところなんて想像したこともなくて、活字になっている短歌はすべて憧れの境地にあると思っていたのです。
 自分の歌が文字になって形に残って、誰かの目からその人の頭に私の歌が入っていくところを想像すると……どうしてでしょう」

 陽瑞さんは腕を抱いてぶるっと一つ震えた。

「自信をなくしてしまうのです、自分の歌に対して」

 陽瑞さんのこの一言を聞いたその瞬間、僕の身体にヒュンとした浮遊感を感じた。




(……灯火野くん)

 この声に反応して、いつの間にかつむっていた目を開いた。陽瑞さんが、僕を呼んだんだと思った。それはそのまま彼女の声だったし、さっきまでこの場所には僕と彼女しかいなかったから。
 でもこの部屋には今、僕しかいない。

「陽瑞……さん……?」

 どこに行ってしまったんだろうというよりも、何が起こっているんだろうという不安が僕を襲った。

「何をそんなに迷っているの?」

 声は、小雪の降り続く窓の方からした。

「もう私のこと忘れちゃった? 意外と薄情なんだね、灯火野くんって」

 軽口はあくまで軽やかで、僕の頬をぴしゃりとはたくようなキレがあった。それはとても懐かしかった。

「緋穂さん……!」

 僕の目の前に現れた君は、1年前と全く変わらぬ姿でそこに立っていた。

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