あかりがまぶしい
02
 こうした経緯で、しばらくの僕らの活動目的が「新入生に対する文芸サークル紹介冊子の原稿作成」ということになった。寄稿者は、小説が岡田さんと僕、短歌が榛紀さんと陽瑞さん……。

「結局この四人か……」

 岡田さんが返信を見返しながら肩をすくめて苦笑した。確かに寂しい話ではある。

「あ、あの、もう少し執筆者が多い方が様になるのでは……」

 陽瑞さんの表情が懸念を隠しきれない。

「その方が望ましいがな。印刷代のこともあるし他の部員の力量が正直わからないから。いつものメンバーの方が正直仕事もしやすいし、何より安心品質でお届け出来るってもんだ。
 ちゃんと作品提供者を募ってこの四人にしぼられたんだ。他の奴らも文句はあるまい」

 岡田さんが言葉滑らかにそう言った。

「そう、ですか……」

 陽瑞さんが腑に落ちない様子なのもわかる。ただでさえ僕らはまだ1年生で、サークルの中では格下だ。いつもサークル長のそばにいて仲良くしているのに、他の先輩方や部員を差し置いて作品寄稿までするなんて厚かましいんじゃないか……と、周囲の部員に思われるのが辛いんだ。

「それよりも陽瑞ちゃん、俺らは小説みたいにページ数を簡単には稼げないから頑張らないと。見応えのあるページを作ろうね」
「あ……そうですね。頑張ります!」

 負けじと、とばかりに岡田さんが僕の正面から青く燃えるようなまなざしを投げかけてくる。

「小説だって読み応えがなきゃただのインクの乗った紙だ。量より質を求めていこう」

 言葉の持つ熱を感じて、鼓動が少し高まる。

「はい、全力で」

 どんな冊子が出来上がるのだろう。冊子の厚みや重み、ページをめくる音なんかを想像するだけで早く手に取って読みたくなる。




 原稿の締め切りは、一ヶ月後の三月末日。新入生の入部体験が四月の中旬になるから、印刷や製本の手間を考えると、その日がデッドラインになりそうだ。岡田さんと榛紀さんは四年生への準備でなんだか忙しそうで、今までに書き上がっている作品から厳選して寄稿するのだそうだ。僕らよりも長い二年分の蓄積は、たぶん嘘をつかないんだと思う。

「さて……どんな話にしようかな」

 大学入学を記念して両親に買ってもらったノートパソコンを前に、一人呟く。僕と陽瑞さんは、有り余る休暇の中の一ヶ月という時間を有効に、そしてふんだんに使って創った新しい作品を創りだして提出することに決めた。新入生が初めて僕の作品に触れるせっかくの機会になるのだから、そのシチュエーションに相応しい話の方がいいだろう。
 僕は話の世界に潜り込む。切符なんか要らない、目を閉じればいいんだ。
 目を閉じると、暗闇の中に一人経っている僕がまぶたの裏に現れた。景色もなく五感の全てを失われた世界に僕が一人立っているのだ。
 世界を創り出すのは僕だ。僕は思ったよりも自由な世界にいて、僕は大人にも子どもにも、女にも男にもなれる。……女になって世界が完結したことはないのだけれど。冒険を遂げるまでの道のりは確かに険しいけれど、冒険に立ち向かうまでの自由はいくらでも保障されている。
 新入生に伝えたいこと。僕は言葉よりも先に思いを探す。この作業には手を抜かない。何日かかろうと、絶対に。

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