あかりがまぶしい
03
 温泉宿は、降り立った無人駅から歩いて二十分のところにあった。地図を持つ駒浦を先頭に、その地図を覗き込むように仁岡がその隣を歩き、俺と柚希が並んでその後を追う。のんびりとしたペースだった。

「ここだ、このスーパーを通り過ぎて、坂を上るのかな?」
「地図でなんで坂があるって分かるのよ」
「ほら、この旅館の玄関写真のアングル見なよ。坂がないとここの地面はこうは写らない」
「……本当だ」

 この二人が喋りすぎるから、という訳では全然ないのだけれど、勢いに圧倒されている感は否めない。俺の元々重い口が、今日はさらに重く感じてしまう。

「二人とも……」

 柚希も、たまに口を開きはするが、

「……楽しそうだね」

 なんだか独り言のようにうやむやになって終わってしまう。俺は少し、申し訳ない気持ちにさえなっていた。

「……なんか、わりぃ」

 不思議そうに首を傾げる柚希。

「いつもみたいに話そうと思ってはいるんだけど、できねぇんだ。『いつも』が分からなくなっちゃってさ……。
 俺、こういうの初めてなんだよ。その、なんだ、友人と泊まりがけで旅行……みたいなのがさ」

 友人と言えるような仲なのは、駒浦だけだが。

「ううん、いいの。私もちょっとまだ、緊張してるみたい」
「つまらない思いは、させたくないんだけど……」
「結構楽しんでるわよ?」

 柚希がそう言って微笑みかけてくれた。それだけで俺は幸福感に包まれてしまうんだから、やっぱり少しおかしいよな。

「到着だ! ほら、二人とも急げよー」

 駒浦が立ち止まって手をこまねいている。俺たちは歩調を早めた。




 旅館は個人が経営していて、少し大きな民宿、と言った風だった。部屋はもちろん男女で分かれていて、他に団体はいなかった。

「ほぼ貸し切り状態なのね」

 明らかに仁岡は嬉しそうだ。何かしでかす予定でもあるのだろうか。
 駒浦が部屋の鍵を受け取り、一方を柚希に渡した。

「部屋に荷物を置いて、少し休むことにしよう」

 今の時刻は昼の十一時。小腹も空いたがまずは足を伸ばして座りたい。

「じゃあ、十二時頃にロビーに集合ってことで」

 女子たちと別れて、俺はポケットに入っていた計画書を確認する。休憩時間も含めてほぼ駒浦のタイムテーブル通りだ。俺の隣でへらへら笑って手を振る男をまた、すごいと思ってしまった。

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