あかりがまぶしい
02
「お疲れ様だったねえ、期末テスト」

 柚希の誕生日まであと二週間に迫り、俺たちは一学期末を迎えていた。定期テストのある日は、その最終日も含めて昼前の放課となり、学生たちは方々に散る。今回は土日を挟まず、火、水、木、金曜日の試験日程だったから、どんな休日を過ごそうかとみな心を弾ませているのだろう。
 そんな中での、駒浦との会話だ。

「ああ、疲れたな。今日くらいは帰ってすぐ寝るか」

 適当にそう返す。言うが早いか口からあくびも漏れた。眠い。

「ある調査によって最近の若者の休日の過ごし方のダントツ一位が惰眠をむさぼることだということが判明して、お偉方は憤慨しているらしいね。でもそれは当然の結果なんだ。最近の若者の平日は恐ろしく忙しいんだから。
 ……違う、俺はそんな話をしにきたんじゃない。これを見てくれよ」

 これって何だ、と聞く前に、駒浦が手渡してきた紙に目を通す。……計画書、のようだ。
 およそ三分ほど、そのB5用紙二枚を睨む。印字された書類は、それなりの分量だった。
 目を通し終わり、とりあえず一言。

「これ、いつ書いたんだ」

 格調ばかりやけにサマになっていやがるが。

「昨日の午後。今日の科目はだいたい大丈夫だったからね」
「……なめきってるな」
「学年のトップ三人がいつも固定してきて、最近つまんないんだよね」

 そう、駒浦は要領がいい。その要領の良さを最大限に生かしてか、定期テストではトップレベルの成績を叩き出す。
 話を元に戻す。

「で、つまりこれは何だ?」
「三分もかけて読み込んで、それはないだろ」

 駒浦がむっとした顔で、俺の手から計画書を取り上げた。

「どういうつもりなんだと聞いているんだ。『駒浦スペシャル 一泊二日温泉旅行ツアー』だって? ふざけるな」
「ふざけちゃいないさ。むしろ、大真面目な話。お前、四ノ倉さんとはあの林でしか話してないだろ? たまにはパアッと羽を伸ばそうじゃない」

 「あの林」と言ったときに駒浦が指した親指の方向のあまりの的確さに、俺は言葉を奪われた。『四ノ倉さんとはあの林でしか話してないだろ?』という駒浦の言葉は、全くその通りだった。
 俺たちの通う学校の校庭の片隅には、人目につきにくい竹の林があって、俺と柚希はそこで出会った。俺たちは多くの悲しみや嘆きをそこで語り合い、生きる喜びと確かな愛情をそこで育んだ。
 そして俺たちは、それ以上のことを相手に求めることもしなかった。ほかの場所で会おう、とか、休日に会おう、とかも言わなかった。
 そんな、二の句も継げないでいる俺に向けられた駒浦の視線は、鋭かった。

「君らの関係に、不満足なところがあるなんて言わないし、思ってもいない。俺の調査によれば、お前らは今や誰もが羨むベストカップルだ。
 でもな、これから先も一緒にいようと思う相手なら、君らに必要なのは思い出だ。違うか?」

 駒浦という人間を、無理に一言で言おうとすれば軽い男だ。しかし、人間を一言で表そうなんざやっぱり無理な話であり、それは駒浦に対しても例外ではない。この言葉はまぎれもなく駒浦の精一杯の気遣いでありそれ以外のなんでもなかった。普段に似つかぬ大真面目な顔に、笑って答えることなんてできない。俺と柚希の胸に共通して残る、思い出を思い、これからも二人でいられるようにという小さな祈りを思うと、笑うことなんてできなかった。

「……心は、決まったようだな」

 いつからだろう? 駒浦のこの笑みが、信頼の証になったのは。




 ゴトンゴトンと電車がレールの上で揺れる。ちょっと暑いね、と仁岡が少しだけ窓を上げた。窓側に座る仁岡と駒浦に、勢いよく風が当たった。

「うわぁ……爽快感の演出にしては激しすぎるよ、みゆきちゃん」
「う、うるさいわね。じゃあ、自分で閉めてよ!」

 ……元気な奴らだ。
 ふと目を上げると、柚希も同じタイミングでこちらを見ていて、駒浦たちの茶番に二人で笑った。
 ……まあ、たまにはこういうのも、悪くない。

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