「疲れた。別れよう」
テーブルを挟んで向いに正座した陽介が俯いたままで呟いた言葉が、狭い1Kの室内でやけに大きく響いた。

(疲れたとかこっちの台詞だしっ)
目の前の男の仕打ちが走馬灯のように脳裏を駆け巡り、やり場のない感情がため息にかわる。
「わかった。用事それだけなら帰るな」
床に丸めて置いた上着を掴んで立ち上がる。
目の端で男が勢いよく顔を上げたのを捕らえたが、気付かない振りで踵を返した。

ガタタッ
「待てって!何だよ、それ!」
「・・・ッ痛」
慌しい物音と共に声を荒げた陽介に腕をきつく掴まれた。
「もっと何かあるだろ?!」
声を荒げ、篤を強く睨む姿は喧嘩を売っているとしか思えない。
陽介の勢いと反比例するように冷たい双眸の篤が口を開いた。
「もっとって?別れないでって泣きながらお前の足に縋りつきゃいいのか?」
言って口元が自嘲気味に歪む。
陽介と付き合って抱かれている間にボロボロになってしまったプライドしか残っていなかったとしても、篤だって男だ。
そんな芝居、見せてやろうなんて思わない。
陽介の意図がどんなものだろうと、いつか捨てられるならば潔くと決めていた。

鋭い眼光で篤を睨む陽介の口がギリギリと音をたてた。
自分から別れを切り出しておいて、あっさりと了解したのが余程悔しいのだろうか。

「・・・お前さ、何なの?何がしたいの?」
「何がって・・・」
きつく唇を噛みしめた陽介の視線が今度は恨めし気なものに変わり、じっとりと絡みつく。
(はぁ、めんどくさっ)
「な、んだよ・・・面倒臭いって!」
思わず口に上ってしまったらしい言葉に陽介が更に激昂する。
「ほんとのこといってごめん。おもったことがくちからでた」
意図して漏れたわけではないが、謝罪の言葉すら思わず棒読みになってしまう。
射殺すような陽介の視線が一層強いものになり、息苦しささえ感じる。

「わからないなら言ってやろうか?」
陽介の灰色がかった瞳を睨むように見据え、大きく息を吸い込み一気に吐き出すように喋る。
「…浮気してるフリしたり盗聴したり盗撮したり人のゴミ集めたり・・・んで、今度は別れるとか言ってさ、お前はんな回りくどいことして何したいのかって聞いてんの」


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