乱雑な所作で広げられた中身は、化粧品らしき道具と洋服と毛の塊。
篤の眉間の緊張は一瞬で解れ、薄く開いた口は正しくポカンとした顔を作り、瞬きを忘れた漆黒の瞳がベッドの上を凝視する。
「なに、これ・・・?」
「ウチのクラス、女装クレープ屋やったの」
「へー・・・さぞ似合ったろうな」
完全に嫌味だ。180cmを超える長身で男らしい身体つきをした陽介が女装とは、いくら整った顔立ちとはいえ、さぞ気持ち悪かったことだろう。
「うん。俺のメイドさん姿、見せたかったよ」
篤の棒読みの冷たい言葉をかわし、陽介がにっこり微笑む。

上機嫌な陽介と対極に篤の目が据わる。
陽介の満面の笑顔に、先ほどから悪寒がして仕方ないのだ。
「じゃぁ、着替えとメイクが終わったら起こしてくれ」
「ちがうちがーう!」
「っ!」
布団を被ろうとした篤の肩を陽介の腕が無理矢理押し留め、篤の身体に鈍痛が走る。
「あ、ごめん・・・」
痛みに顔を歪めたのを見て慌てる陽介だが、腕の力は緩められたものの、まだ手は篤の肩に添えられたままだ。
「わかってるでしょ?”おめかし”するのは篤だよ」
「は?」

思う以上に冷えた声が出たのは仕方のないことだろう。
陽介には劣るものの、篤も平均身長を優に超えているし、筋肉質ではないがお世辞にも華奢な身体つきとは言えない。
その篤に女装をしろと言うのか。

そもそも、似合う似合わないの問題ではない。
元々ノンケの陽介に女装をねだられる屈辱といったら・・・ゲイの篤には相当の仕打ちだ。
女にモテるこの男が同性を女の代用にする必要はないが、それにしたって異性装を求められればそんな考えも浮かんでこよう。

「篤が何考えてんのかわかるけど、違うから!
ちゃんと話を聞いて?」
「何をだ?」
瞳を覗き込む陽介から少しでも逃れるよう、わずかに視線をずらした篤の瞳に、色濃い悲しみが見える。
──反発は予想していたが、こんな顔をさせたかったわけじゃない。

「俺は篤とイチャイチャしたいだけだよ」
「・・・してるだろ」
すぐにベタベタじゃれつく陽介に、篤なりに応えているつもりだ。
気恥ずかしくて、甘い雰囲気を感知するとつい気分を逸らしてやりたくなるが、恥ずかしさが先に立つだけで甘い空気が嫌なわけじゃない。
『恥ずかしがり屋な篤を好きだよ』なんて甘い台詞さえ吐くのに、それは嘘だったのかと下唇を食んだ。
「篤は外で手を繋いだりとか、嫌でしょ?」
「それは・・・」
確かに二人きりの空間であるアパートの部屋から一歩外に出てしまえば、友人の距離でしか近付くことはなく、「嫌だ」とはっきり口にしたことさえ幾度かある。
「でもさ、女の格好だったら問題ないだろ?」
「はぁ?!」
イチャつくために女の格好をしろというのか。似合わないとか明らかなオカマとイチャつくつもりかとか言いたいことは色々あったが、パクパクと口が動くだけで、一つも声になることはなかった。
「うんうん」
まるで篤の言いたいことがわかっているかのように、添えたままだった手で肩をポンポンと叩かれる。
「篤だってわかならけりゃ何も問題ないじゃんか」
「・・・」
「大女に見えるかオカマちゃんに見えるかわかんないけど、とにかく篤には見えないようにするからさ」
ね、お願い、この通り、と両手を合わせて拝まれる。
愛する男に頭を下げられ、否と言えるわけがなかった。


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