昨日の名残をシャワーで洗い流し、濃くはないがうっすら目立ちはじめた髭に剃刀をあてる。
そこからは陽介の独壇場で、ドライヤーで髪の毛を乾かすことすら、篤が手を出すのを許さなかった。
「これ、男性用化粧品なんだって」
そう言って、小さいパックに入った化粧水と乳液のサンプルを取り出す。
日焼け止めやアフターシェーブローションすら使わない篤は、異質なもので肌を覆われる不快感に眉を顰めた。
「臭い。ベトベトする」
「臭いか?普通だろ。それにすぐに馴染んでベトベトしないさ」
確かに柑橘系の爽やかな香りだが、鼻のすぐ近くで香る香料は不快以外の何物でもない。何より、髪の毛を乾かしたり肌をいじったりする陽介の浮かれようが気に入らない。
「顔と服、どっち先にしよっかなー」
不快感も露に眉間に皺を寄せる篤などお構いなしで、陽介はベッドの上の荷物を漁っている。
タオル一枚で放り出された篤は、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌の陽介の背中をジッと睨んでいたが、諦めたようにため息を一つ吐いて冷蔵庫のペットボトルを取り出してからソファに腰掛けた。
「もう、好きにしてくれ・・・」
了承してしまったのは自分だ。今更拒否して陽介を気落ちさせることもないだろう。
ほんの数時間だけの我慢だろうとよく冷えたミネラレルウォーターを口にした。
互いの気持ちを確認し、言いたいことは伝えなければいけないと痛感したのはついこの間のことだが、最早二人の付き合いで篤が折れるのは習慣化していた。
慣れきってしまった篤は今日も陽介の言うがままに頷いたが、これが早計であったことを知るのはすぐ後だ。しかし、そんなことは今の篤が知る由もない。

陽介は広げた道具の中から衣服を取り出した。
「これ着てみて。篤のために選んだから、サイズは合うはずだよ」
高校時代に使ったというメイド服でも着させられるのでは、と身構えたが、差し出された洋服は白を基調としたごく普通の婦人服に見える。
受け取って広げてみると、襟にリボンをあしらった清楚なワンピースだった。
「ん?」
広げたワンピースから赤い布が落ちたのが見えた。
一枚はひらりと舞い落ち、一枚はトスっと少しの重量感を持ってベッドに落ちた。
拾い上げたそれらは、同じ光沢を持った赤で‥
「これ、って…え?ちょっ…」
どう見ても女性用の下着の上下セット。なじみの全くないそれに、篤は慌てて手を離した。
「あと これも」
更に差し出されたものは、下着と同じように光沢感のある布でできた薄ピンクの丈の長いキャミソール

とストッキング、ガーターベルトまであった。
「これ、誰の?」
完璧な女性のセットに思わず間抜けな問いをしてしまった。
「だから、篤のだって言ったじゃん。ちゃんと全部新品だよ」
「誰が買ったの?」
「俺以外に誰がいんの?店員さんに相談して買ったから、おかしくないと思うよ」
あまりの衝撃に篤は、にっこり笑う陽介の顔を間抜けに見返すしかできないかった。


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