「マルコ」

呼ばれて振り向くと、そこにはなまえが立っていた。
いつもとは違って静かななまえ。
マルコはなまえの側に寄り、視線を合わせるため屈んだ。

「峨王の背中に飛びつくん。氷室さんが気を引いてるうちにやるで。せーの、って言うたら一緒に走り出して」

悪戯を企む子供の顔をして、なまえはマルコの耳に口を寄せ、小さな声で言った。
なんて命知らずなことを。
マルコは呆れたが、しょうがないと笑った。
そして前の方にいる氷室と峨王を見据える。

「マルコ、行くで、せーの!」
「わっ、ちょっとなまえ……!」

マルコは走り出して、途中で躓いた。
なまえはそんなマルコを振り返りもせず峨王の背中へと向かって走っていく。

「はっや……」

彼女は物凄く早かった。
平均よりも低い身長にも関わらず、なまえは大股でトントンと跳ねるように走って行く。
すぐに峨王の後ろについて、なまえが峨王に飛びついた。
陸上部にでも入れるのではないだろうか。

「やっほーい!!マルコ、せいこ……う。
マルコ!うそつき!来るって言った!」
「……なまえ、何をしてる」
「峨王登り!!」
「なまえ、降りなさい。落ちたら危ないわ」
「誰も転んだ俺を心配しないって、ウン、悲しいっちゅう話ね、ウン……」

マルコは肩を落とし、半泣き状態で立ち上がった。
服に付いた砂を払い落とし、三人の元に駆けて行く。
途中で目に溜まった涙を拭う。
峨王から降りたなまえは、マルコに大きく手を振った。
氷室は小さく微笑んだ。



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