一読者さま 
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 ああ、そう。
そう。
澄ました顔したやつほどどうにかしてやりたい。

 そう思うようになったのはいつからだろうか。

「帰った」

 この家はわたしの家なのだが、彼とは半同棲となって数ヶ月が経とうとしていた。
仕事の都合で日本にいるとのことだが、今のところあちらに帰る予定はないらしい。

「おかえり。きょうははやかったんだね」
「少し、休みたくてな」

 彼はソファーに座る私の肩に腕をするりと通し、そのまま頭を抱えた。
どうやら本日は参っているようだ。
いつもついている隈が濃くなっていないか確認する必要がある。

 ひとしきり彼からの抱擁を受けて、私はゆっくりと彼を引き剥がした。

 顔を見つめると、ほら、やっぱり隈がいつもより、濃い。

「ほら、寝ないといけないんでしょう」
「もう少し」
「もう、困ったひと」

 外で出会う彼は、こんな表情なんて見せてくれない。
だけど優しすぎるその笑みは、幸せの象徴でしかなくて、何かが物足りない。
でもそれを満たすのはきっと、まだ先のこと、だと思う。

「ほら、ベッド行こう」
「君から誘うなんて珍しいな」
「わかってるくせに」
「はは、すまない」

 ソファーを立ち上がり、彼の手を引いてベッドルームへと移動する。
と言っても日本の賃貸なのでそんなに大きなものでも遠いものでもではないが。

 トン。彼の胸板を押してベッドへと倒れ込ませる。
そんな私の腕を彼は引いて、一緒に倒れ込ませる。
勢いよくいったわりには、ベッドの柔らかさで痛くはなかった。

「なんてことすんの」
「一緒に寝てくれるんだろ?」
「許されると思ってるんだから」
「許すんだろ?」

 思わず黙って彼を睨む。
けれどそれも幸せの象徴で、彼はただ笑みを向けてくれるだけなのだ。

──ああ、もどかしい。

 しかしそのもどかしさは、一瞬浮上するだけなので無視することができる。
だから私は毎度の如くスルーして、いつも通りの私に戻るのだ。

 彼の柔らかな髪を撫でる。
ふわふわして、まるでシルクのような手触り。

 気持ちよさに彼の瞳が閉じていく。
その様を私はただ眺める。

 そして、

「……ん」

 彼がほんの少しの声をあげた。
それは耳裏の首筋を撫でたときのことだった。

 頭を撫でるフリをして、また耳裏を撫でる。
触れるか触れないか、絶妙なコントロールを指にさせて耳たぶまでなぞった。

 しっかりと彼が顔をしかめるのが目に見えた。
それを見計らって、彼女はベッドに寝転がる彼に覆い被さる。

「寝かしてくれるんじゃなかったのか?」
「いつも寝かさない秀一が何言ってるの?」

 汗ばみ始めた額にキスを落とし、余裕の笑みを浮かべている。

 撫でて、なぞって、ただ触れて、肌の上を歩かせて。

 声を抑えるためだろうか。
彼は苦しげに眉間に皺を寄せて目を瞑っている。

 我慢するぐらいなら、声なんて出してしまえば良いのに。

 彼女は彼の唇を空いた手でなぞった。
唇はキツく結ばれたかと思えば、何度もなぞることで不思議と緩んだ。
それを見計らい、親指をぐり、と割れ目に刺した。

 彼は彼女を傷つけられない。
だから突っ込まれた指を噛むなど言語道断だった。

「なに、」

 恍惚と笑む彼女は彼を見下ろしていた。
彼の瞳に写った彼女はこれまでに見たことのないような、怪しげで、それでいて悦びひ満ちたように笑んでいた。

 耳元に顔を近づけて囁く。

「まだ始まったばかりじゃない、楽しみましょうよ」

 吐息をわざと多めに含ませれば、彼のからだは大きく揺れた。
だから期待を大きくして、唾液を含ませた舌で耳たぶ、耳裏、内側と順番になぶってやる。
唾液で輝くことを確認し、息を吹きかけ、ゆっくりと空気を吸い上げる。

 彼の腰が動いた。
それはつまり、そういうことである。

「ほら、気持ちよくなりましょうね」

 珍しく、彼は彼女を睨みつけた。

 ああ、そう、そうよ。
愛する女に、惨めに愛されてくれれば良いのよ。

 理性の糸が切れた彼女は、抵抗を示さない彼の股下にゆっくりと、彼にわかるように手を伸ばした。





「降谷さんをいじめるお話の赤井さん相手verのように、赤井さんにいじわるする夢主のお話」
今更となりましたので見ていただいているかわかりませんが、書かせていただきました……!
大変遅くなりまして申し訳ありません……。



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