聖さま 
 [ 3/10 ]





「そういえば、きょう猫の日だってね」

 二月二十二日。言葉遊びで、にゃんにゃんにゃん。

 おうちデートなんてかわいい響きのわりにぐーたらと彼の家のソファーで寝転がっていると、起きたての零はコーヒーがはいったマグカップを手に持ちながら眉間に皺を寄せてわたしを見た。
その顔から察するに、だったらなんだよ、ということなのだろう。

 わたしの分のマグカップをテーブルに置いて、彼はわたしの足をどかしながらソファーに座った。

「猫、ほしいなあ」
「無理」
「けーち」

 ため息をつかれる。

 そんなこと返事がくることはわかっていた。それでも頬を膨らませてからからだを起き上がらせて、彼の腹に埋もれる。
ぐりぐりと頭をすりつかせるようにしていると、優しく指が髪をといた。

「一匹で十分だ」

 横目で彼を見やるとどうも笑っているようで、楽しそうにしているのはわかったのだがなんとなくノリというやつで突っかかってしまうことはよくあるのだ。

「それってわたしのこと?」
「他に誰がいるんだよ」
「手のかかる子ですみませんねー」
「まったくだ。手のかからない猫はそんなこと言わないからな」

 そんなこと言ってるわりに、撫でる手つきは優しい。

「じゃあなんて言うの?」
「そうだな……。にゃあ、て鳴くからな」

 にゃあ。猫は人間のことばを喋れない。

「にゃあ」

 唐突に鳴いてみせたわたしに驚いたようで、零は一瞬動きを止めた。
しかしそれもすぐに笑いへと変わり、彼も「にゃあ」と鳴いた。

 ふふふ、と思わずわたしも笑みがこぼれた。
彼の腰を腕全体で掴みながら腹に埋もれて息を吸った。

 彼はわたしの背中をさすり、しばらくしてから引き剥がした。
ゴリラパワーでわたしを持ち上げ、膝の上に跨らせた。

 お互いに見つめあってから触れるだけのキスをする。
また見つめて、また触れて。
何度も繰り返すうちに彼の唇を舐めていた。

 彼の手が待ったをかけた。
けれどその指をちょっと舐めてみる。

「猫はこうやって、舐めるでしょ」

 すると彼もそれを真似てかわたしの頬を舐めるのだ。
猫の舌と違い、やわらかい感触がくすぐったい。

 頭を彼の額にこつ、とあててそれを止めさせた。
手を握って、頬にキスをする。

 彼の頭がわたしの肩に乗った。
ぐりぐりと押しつけ、自分の香りをつけているようだった。
マーキングというやつだ。

「どうしたの」
「なんとなく」

 言葉少なめに返ってきたが、甘えん坊のように放そうとはしない。
だから覆うように抱き締めて、彼の髪を撫でる。
冬の猫の毛並みのように、それは滑らかでふわふわとしている。

「零のほうが猫みたい」
「どっちもどっちだろ」

 彼はわたしの腰を強く抱き締めた。
わたしもそれに応えて腕の力を強めた。

「猫なんて飼ったら構えないからな」
「逆かもよ」

 肩を揺らして笑ってやれば、彼の少しずつ緩んできていた腕の力がまた強まった。

 どうやら彼は、自分が一番に構われないといやらしい。
喉をごろごろと鳴らすように、わたしの香りのする首を甘く噛んで、同じところを舐める。
髪をすくように撫でてやれば、もっともっととでも言うようにまた顔を擦りつける。

 こんな愛らしい猫は、他にいるだろうか。





聖さま
改めまして、
この度はご参加いただきましてありがとうございます。
『降谷さんがひたすら甘いお話』とのことでしたがうまくできているでしょうか……。
聖さまからリクエストを頂戴してすぐに「猫語を喋らせたい……」となり、こんな話になってしまいました。
ちょうど2月22日も近かったのでマッハで書いた次第です。
これで大丈夫か不安で仕方ありません(笑)
ですが、よければもらってください。



prevnext  


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -