――死んだ。
死んだ。いや、正確に言えば殺された、が正しくて。圧倒的な力の前に、なにもできずに死んでしまった。
ああ……思ってたよりあっけなかったなあ、自分。なんて倒れる瞬間思いながら苦笑。腹は抉れてて血まみれ、足は捻れててもうたてない。どんな名医でも治すことなんて不可能だろう。つまり、死亡決定。結局自分も家賊のカタキなんてとれなかったのだ。いや、勝てないなんて知っていたけど、それでも大事な家賊が殺されたのだから、たちあがらなければならなかったのだ。もう、たてないけれど。
まあまだ生きてるけれどもう助からないなら死んだでいいだろうなんてしょうもないことを考えながら自分を殺した人間をぼやける目で見つめる。……ふたり、狐の面を被った橙色が鮮やかな子どもと、それを遠くで見つめる奇妙な女。人形師、やったっけ?なら子どもは人形か。それならば殺せなくても仕方ないか。殺人鬼に人形は専門外だから。
そろり、と子どもが動く。ああトドメをさす気なんやなあ。そんなことしなくても、もうすぐ死んでしまうのに。体の感覚だって、もうない。別に兄貴と違って変態でもマゾでもないから痛くないのは有り難い。


「……………」
「……はっ………どーや?まだ動けるとは思ってはなかったや、ろ………っ!!」


最後の力を振り絞って、せめて子どもの顔を見てやろうと唯一動く腕で近くの石を投げつけて面を飛ばした。別に危害を加えるものじゃないから、避けないだろうと考えたそれは外れなかった。いや、外れてもよかったけれど、自分を殺した奴の顔ぐらいは見てみたい、っていう軽い軽い気持ちだったのに。
意志の強そうな眉、髪と同色の輝く瞳、まだ幼い顔立ち、ほとんど寝ているのかとろん、とした表情。一瞬で目を奪われた。目が、離せなかった。止まりかけていた心臓がどくどくと波打った。ああ。もっと、もっと見ていたいのに。橙色の、女の子はその表情のままオレに向かって手をふりかぶった。


「―――、っ……………」


ああ、綺麗やなあ。
ずっとずっと見ていたかった、もしかしたらこれが恋っちゅうもんかもしれへんわ。最後に呟いた言葉が届いていれば、ええ。

もう感覚もなく、橙色の女の子の腕がオレに当たったと同時に意識が遠のき………ブラックアウト。やっとできた初恋が死ぬ間際、なんて、神さまも大概ひどい奴やなあ………………………、……。



片道切符で退場しました
零崎轢識(ぜろざきれきしき)、《一週目》より、退場。


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