宜しく、おじさん3


「風邪だったわ」

スタジオまで激走した俺達がフラフラな状態になって事務所に戻ると、先に帰っていたアニエスが開口一番に告げた。
事の顛末はこうだ。
バーナビーのマネージャーは、待ち合わせ場所に向かう途中気分を悪くして、道端で意識不明になっていたところを救急車で運ばれたらしい。気を失うまで、必死に事務所と連絡を取ろうとしていたが、そのまま力尽きてしまい…。

「風邪…ですか?」
「えぇ。肺炎になりかけてたらしいの」
「そういえば、この頃、体調が思わしく無いと言っていたような…」
「まぁ、そういう訳だから、彼には完治するまでゆっくり療養して貰おうと思って」

僕もそれが良いと思います、と、バーナビーも同意する。

「そこで一つ、提案なんだけど…」

分厚い手帳をめくっていたアニエスは、勢い良くそれを閉じた。

「鏑木さん、暫くバーナビーのマネージャーをして貰えないかしら?」
「へ…?」
「バーナビーのマネージャーが戻ってくるまでで良いから」
「……でも、此処、まだ社員が居るんじゃないのか?」

なんせ、机は三つある。風邪で倒れたバーナビーのマネージャーを差し引いても、少なくともあと二人は社員がいるはずだ。

「確かにいるけど、二人共ダメなのよ」

アニエスは首を横に振る。

「二人共、他のタレントに付きっきりな状態だから。彼らには、バーナビーに付いてあげられる時間の余裕など無いわ」
「……」

そこまで言われてしまうと、ぐうの音も出ない。それでも俺は、直ぐにYESと答えられなかった。

「…別に僕、マネージャーなんか居なくても平気ですよ、アニエスさん」

返答に迷っていると、突如、バーナビーが口を挟んでくる。

「現場には一人でも行けますし…」
「そうはいかないわ。貴方はうちの事務所にとっても大切な存在なのよ。貴方に一人で行動させて、何かあったらどうするの」
「自分の身ぐらい、自分で守れますよ」
「何、言ってるの。沢山の人に囲まれたりでもしたら、貴方、一人で切り抜けられるの?」
「それは…」
「本当は私がバーナビーに付いてあげられたら、良いんだけど…。鏑木さん、お願いよ。2ヶ月…、いいえ、1ヶ月だけでも良いから、引き受けてくれない?彼のマネージャーが戻ってくるまでで構わないから」
「……アニエス」


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