宜しく、おじさん4


彼女の気持ちも分かるし、助けたいとも思う。だが、どうしてよりによって、こんな仕事なのか。他の仕事ならば、喜んで引き受けてやるというのに。

「お願いよ、鏑木さん」

自分に対して、必死になって訴え、手を合わせるアニエス。その様子を眺めていたバーナビーが、再び、口を挟んできた。

「いいですよ、アニエスさん。こんな人に頭を下げなくても。嫌々、引き受けられても、こちらも迷惑なだけですから」
「誰もそんなこと言ってねェだろ」
「ですが、そういう態度されてますけど?素直になったらどうですか?」

その台詞には、流石の俺もカチンときた。
年甲斐も無く、反論したくなる。

「悪かったな、素直じゃなくて」
「そういう大人げ無い態度、僕は好きじゃありません」
「煩ェ。俺だってお前のような、生意気が若造、好きじゃねェよ。寧ろ、嫌いな類だ」
「そうですか。初めて貴方と意見が合いましたね」

バーナビーはそっぽを向きながら、言った。全く、あぁ言えば、こう言う。ヤツの言うことは一々正論だから、尚更、頭にきてしまう。

「それでどうするんです?いい加減、どちらかはっきり決めて頂けませんか?嫌なら嫌で構わないですから」
「分かった。やるよ、やってやろうじゃねェか」

半ばムキになって、そう言い放っていた。不本意な部分もあるが、立場上、断ることも出来ない状況に変わりはない。

「マネージャーさんが戻ってくるまでの間だけだ。アニエス、それで良いんだろ?」
「えぇ、まぁ」
「…分かりました。その代わり、引き受けたからには、真剣にやって下さいね。途中で投げ出すようなことがあったら、僕が許しませんから」
「あぁ、分かってるよ」

バーナビーと目が合って、俺達の間にバチバチと激しい火花が散る。

「じゃあ、改めて、宜しくお願いしますね――おじさん」


宜しく、おじさん
「今、何つった?」
「いえ、何でも」



(20110920)


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