宜しく、おじさん2


「初めまして。バーナビー・ブルックス・Jrです」

ニコリと微笑んで、すっと手を差し出される。これが所謂、営業スマイルというものか?慣れた仕草に少々戸惑いながら、俺は伸ばされた手に自分のものを重ねた。握った手は、俳優の手というよりは、どちらかとスポーツマンに近い。身体を鍛えでもしているのだろう。

「ところで、バーナビー。貴方、今日は仕事じゃなかった?」
「そうなんですが、マネージャーが待ち合わせ時間になっても来なくて。彼の携帯にも連絡したのですが…。僕、その後のスケジュールを頂いて無かったから、どうしようかと思って…」
「え?連絡がないって、どういうこと?」

そんなこと有り得ないと言わんばかりの口調だ。だが、バーナビーが肯定の反応を示すと、アニエスは至極困った表情になる。

「でも、だったらもう出ないと、間に合わなくなるんじゃ――」

すると突然、アニエスのデスクの電話が鳴った。

「はい、METEOR――えぇ、そうです。彼はうちの社員ですが…。えっ?担ぎ込まれたっ!?」

アニエスの発した言葉に、俺とバーナビーは思わず顔を合わせる。終始頷きながら、荒々しく電話を切った。彼女の神妙な面持ちに、何と無く、嫌な予感がした。

「バーナビー、貴方のマネージャーが救急車で病院に運ばれたらしいわ。私は病院に行ってくるから、取り敢えず早く仕事に…」

何をしたらいいのか分からず突っ立っていた俺は、不意にアニエスと目が合ってドキリとした。予感が的中したらしく、彼女が真っ直ぐこちらに近寄ってくる。

「ごめんなさい、鏑木さん。突然で悪いけど、次のスタジオまでバーナビーを送ってくれないかしら?」
「へ?」
「場所は彼が知ってるから」
「う…っ」

咄嗟に嫌だ、と思ってしまった自分がいた。
たった今知り合ったばかりの青年と二人きり、一体、自分にどうしろというのだろうか。気詰まりな空間を生み出すのが、関の山だというのに。…いや、それ以上に、場所も知らない付き添いに意味があるとは、正直、思えなかった。
とは言え、アニエスは病院に行かなければならないし。行くとしたら、俺しか居ないんだよな…。
社員になった今、社長の頼みを無下にする訳にはいかないだろう。

「バーナビーの傍にいるだけいいから。お願いよ、鏑木さん」

再度アニエスに頭を下げられて、今の俺に拒否権など残ってはいなかったのだった。


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