「?」

あれ…?
どうして、こんなに腰周りがふんわりしてて、裾が長く、広がっているんだ?
胸元には、何故か、パットのようなものが入っているし…。
それから、他の服も手に取って確かめてみたのだが、色や形は少々違うものの、最初に見た衣装と、大方は同じような形状のものばかりだった。

「気に入ったもの、見つかった?」

トランクに収めされていた衣装を全て見終わった俺に、雪男が楽しそうに問うてくる。

「あるか、バカ眼鏡!」

抑えていた怒りが頂点に達し、勢い込んで相手に罵声を浴びせた。

「…どうしてそんなに怒っているの?」
「当たり前だろ!、お前が持って来た衣装、全部、女モンじゃねェかよっ!!」

所謂、ドレス。しえみなんかが着たら、恐らく似合うであろう、美しいドレスばかりだったのだ。

「お前はコレを俺に着ろと言うのか?」
「うん」

意に介さずといった風情で、頷く雪男。

「兄さんに似合うかな、って思ったんだけど」
「お前の目は節穴か!」
「それに、吸血鬼と言えば、きらびやかなドレスを着た姫が欠かせないでしょ?」
「…お前のその格好、吸血鬼だったのか」
「そうだよ」

道理で、そんな鋭い歯を付けていた訳か…。
いやいや、納得している場合じゃない。

「美しい姫の首筋を狙う、吸血鬼――凄くロマンを感じない?」
「微塵も感じねェな」

俺はきっぱりと否定する。
吸血鬼に姫…、何だよ、それ。

「兄さんの為に、沢山用意してきたのに…」
「…それ、俺の為じゃなくて、お前が着せたいだけだろ?」
「あ、分かっちゃった?」
「当たり前だ!」

普段から鈍感だと言われてるけど、そんな見え透いた魂胆なら、この俺にだって分かる。

「そこまで理解してるなら構わないんじゃない?」
「構うわ!」

どんな理屈だよ、もう。

「どうしても、着てくれないの?」
「着ない!」
「僕にだけ見せてくれるだけでも良いから、ね?」
「着ないったら、着ない!」
「……本当にダメ?」
「………」

縋るような瞳で雪男に見つめられて、思わず心が揺らいでしまう。

「…そんな目で見るなって」

俺は、慌てて雪男から目を逸らす。

「だって…」

目の前で深く項垂れたら、もう無下には出来無くなった。
俺は雪男のこういう態度に堪らなく、弱い。それを分かっていて、雪男はしてくるのだから、狡いと思う。凄く、狡い。

「……見せやるだけだ」
「え?」
「着て、見せるだけだから。着たら直ぐに脱ぐ。パーティーには、違う衣装を着て行く、それで良いか?」
「うん、構わないよ、兄さん」

至極嬉しそうな表情を相手にされてしまっては、一溜まりも無い。
俺は雪男から身に付けて欲しいというドレスと小物を受け取り、手早く着替えを済ませた。
(雪男も着替えを手伝うと申し出てきたが、それは念の為、却下しておいた。何をされるか、分からないし…)


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