雪男に渡されたドレスは、思いの外、丈が短くて…。いざ、身に付けてみたものの、いかんせん、足元がスースーして落ち着かない。
パンプスもヒールが高くて、どうにも歩き難く、バランスも取りにくい。
女子はこういうものを何の抵抗も無く着こなしてしまうのだから、本当に尊敬してしまう。
俺が今身に纏っているのは、パニエで膨らませたバーガンディのシャンタンワンピースと、リボン付きのワンストラップパンプス。頭にはイミテーションパールがあしらわれた、ティアラ、といった感じだ。
服装だけなら、確かに、何処ぞの国の姫なのだろう。
だが、それを身につけているのは、俺。
こういう格好は、しえみとか神木とか、可愛い女子がしたら、凄く栄えると思う。やっぱり、男の俺には無理があるというもの。
直ぐにでも逃げ出したい気持ちを抑え、雪男の前へと向かう。
すると、ドレスに身を包んだ俺を見るなり、感嘆の溜め息を漏らした。

「あぁ、やっぱり似合うね」
「何処がだよっ。お前の目ン玉、腐ってんじゃねェのか?」
「そんなことない、本当に可愛いよ、兄さん」
「可愛いと言われても、全然、嬉しくねェし」
「出来ることなら、このままパーティー会場に連れて行って、可愛い兄さんを皆に見せびらかしたい気分なんだけど」
「はぁっ!!」

冗談じゃない。こんな格好で外なんざ、歩けるか…っ。

「…冗談だよ」

雪男はふっと笑い、俺の目の前まで歩を進めると、不意に、胸元に結ばれたリボンに手を掛けてくる。それをゆっくり解いて、今度はポタンに手を伸ばしてきた。

「…何してんだよ、お前」

問い掛けても、その行為を止めようとはしない。一つ、二つ、と、次々にボタンを外されていく。

「さっき着たら直ぐに脱ぐって言ってたから」
「そ、そんぐらい、自分で出来る!だから…っ」

ボタンに掛けた手を振り離そうと伸ばした腕は、至極簡単に、雪男に阻まれてしまい…。

「ダメだよ。兄さんは僕の獲物なんだから…」
「…ッ!?」

あっという間に、互いの吐息が交わるくらいの距離まで詰め寄られる。
あと数ミリで唇が触れ合う間際で、Trick or Treat?――と、囁かれた。

Trick or Treat――お菓子をくれ。さもないと、悪戯をするぞ。

先程、雪男から教えて貰ったばかりの言葉を思い出した。
だけど、生憎、雪男にあげられるようなものを持ってはいない。
食堂まで行けば、何かあるかもしれないけど…。

「すまん、雪男。今、お前にあげられるような菓子を、持ってねェんだけど…」

俺の返答に、一瞬だけ雪男が不敵な笑みを浮かべたような気がした。


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