ホームルームを終えた俺は鞄を抱え、教室を足早に後にする。
今日は有り難いことに、祓魔塾はない。そんな時、奥村君が向かうであろう場所は、たった一つしか思い付かなかった。
昇降口へと向かう生徒とは、逆の方向へ。
廊下を渡り、目的の場所まで続く階段を駆け上がる。奥村君が居る、屋上まで。
少し重めの扉の先に、人影。それはよく見知った後ろ姿に似ていて…。
あぁ、やっぱり此処に居たんだな。そう思って、俺は僅かばかり肩を撫で下ろす。

「奥……」

奥村君の名前を呼ぼうとして、口を開いた瞬間、俺の声が一瞬凍り付く。
確かに見知った人の後ろ姿だったが、それは奥村君のものでは無かった。
その人物まで多少距離があったけれど、それでも、そこに居るのが一体誰なのか、俺には直ぐに理解出来た。

「あれ?…若先生」

屋上に居たのは――奥村は奥村でも、弟の方だった。

「何や、此処に奥村君居てはると思ったのに」
「何で、志摩君が…」

先生は驚いたように、まじまじとこちらを見返してくる。
俺はその反応を受け流して、更に歩を進めた。そして、そのまま先生の直ぐ傍まで向かうと、徐に目の前の手摺りに両手を置いた。
それから、奥村君がいつもしているように青空を一瞥して、口を開いた。

「…なぁ、若先生。俺が奥村君を好いとる言うたら、どうしはります?」
「はぁ?」

そんなに予想外の言葉だったのだろうか。先程よりも比べものにならないような、心底意外な顔をされた。

「なに?そんなに驚くこと?」
「驚くのは、当然でしょ」
「相変わらず、酷いな、先生は。俺だって人並みに恋ぐらいしますよ。それがたまたま男の、奥村君だったというだけで」
「またそんな上手いことを言って…。…君の一時的な感情で兄を振り回すのは、止めてくれませんか?」
「………」

何だよ、それ…。
俺は一度だって、奥村君を振り回しているつもりなどないのに。この想いは、本物だというのに。
向けられた言葉に衝撃を受けつつも、ぐっと堪えて、平静を装ってみせる。

「勿論、奥村君が本気で迷惑だっていうんやったら、俺もきっぱりと諦めますわ」
「志摩君…」
「でも、違う言うんなら、俺は諦めるつもりは毛頭ないですから」
「……」
「若先生は、俺と奥村君が仲良うするのがそんなに気に食わないんですか?」
「別にそういう訳じゃ…」

それだけ言って、先生は口を軽く閉ざした。
どうやら相手は上手くはぐらかしたつもりのようだが、俺は直ぐに肯定の反応だと分かった。
間違いなく先生は、俺と奥村君が仲良くするのを、歓迎してはいない。寧ろ、嫌気がさしているのだろう。
そんなの、この人の態度を見てれば大体分かる。先生の――奥村君に対する視線は、兄弟以上の強い想いが滲み出ているし。言葉の端々に、恋情のようなものが見え隠れしているから。
この人は、本気で奥村燐という人物を、恋愛対象として捕らえているのだ。それが禁忌だと理解していながら。
ならば…。
そんなに奥村君が大事な存在だというのならば――。

「そんなに大事なモンいうなら、いっそ、鎖で繋いで、自分の手元から離さなきゃいいやないですか」


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