「…それは病んでいるか。それとも何も分かっていないのか…」

俺の発した言葉に、半ば呆れた表情をされた。それから大仰な嘆息を一つ漏らし、先生は台詞を続ける。

「志摩君の場合は、一体、どちらなんでしょうね?」
「でも、行き場が無くなってしまったら、そうしはるしか、無いんちゃいますの?」
「大事なモノなど満足に作れない君に、何が分かるんだ」
「……」

ぐっと言葉を詰まらせ、俺は強く唇を噛んだ。幾らなんでも、そんなことを言われるのは、心外だと思った。俺のこと、何にも知らないクセに。

「こんな俺にだって、大事なモンの一つや二つありますよ。せやけど、その中で奥村君は何より特別で…」

改めて先生の方へ向き直ると、鋭い眼光で見つめ、言葉を発する。

「他の何より、奥村君が欲しいって思うんです」
「――ッ」

発した声と視線に、先生は、僅かばかりたじろいだように見えた。

「…先生?」
「……駄目だ。兄さんは、絶対、駄目だ」
「まぁ、そうやろな。…けど、先生が駄目でも何でも、俺には全く関係ないですから」
「え?」
「だって俺には先生の気持ちなんて、どうでもえぇし、はっきり言って、何の興味もない」
「……っ!」

ぴくりと先生の口元が引き攣った。余程、俺の言葉が腹に据え兼ねたのだろう。次の瞬間には、胸倉を掴まれ、酷く険しい瞳でこちらを睨み返していた。

「うわっ、めっちゃ怖い顔…」

だけど俺は意に介せず、そのまま言葉を続ける。

「普段は穏やかな先生も、そんな表情しはるんですね。かなり意外やったわ」
「さっきから君は、僕を馬鹿にしてるのか?」
「なんで?アンタかて、俺の気持ちなんてどうでもいいんちゃいますの?興味があるのは、たった一人だけなんやろ?」
「!?」

再び、至極驚いた顔をされた。
これは正に、図星だと言わんばかりの反応だった。

「もしかして、図星ですか?…だったら、この手、いい加減離してくれません?」

そう告げると、先生は掴んだ俺のシャツから、半ば乱暴に手を離す。

先生と俺との間に、異様とも言える緊張感が走る。
来たる瞬間に備え、俺は息を呑んで。息を詰めて…。

「…知ったような口を聞かないで欲しいな」
「いいやろ、別に…。俺のこの感情は、どうせただの悪足掻きなだけやし…。俺が何を言ったかて、奥村君はアンタが好きなんやろ?大切なんやろ?…ったく」

言って襟元を正しながら、俺は真っ直ぐと強い瞳で見詰めた。

「アンタって、ホンマ、目障りなだけやな」
「志摩君…、何を」

びくん、と、先生の肩が大きく震える。
それは一目で見て取れるくらいに。

「先生には、大事なモンが他にも沢山あるんやろ?だったら、一つくらい無くなったって良いやん。俺が奥村君を大切にしたるから」
「………」
「アンタなんかよりずっと、大切にしたるから」

俺だったら奥村君を、哀しませたり、泣かせたりしない。決して、不安にさせたりしないのに…。
彼が笑顔でいてくれるなら、どんな苦労も、労力だって惜しまないのに。


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