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■ 甘い甘い昼下がり


 政宗は、なんというか器用な人だ。
 恐らく、現代の生活に一番早く適応できたのは彼なのではないか、と五葉は思っている。
 南蛮語を容易く使いこなし、現代語に対する理解力も早い。料理が趣味だという彼が、誰よりも上手く南蛮料理を習得出来たのも、それは当然だと思えた。
「政宗兄さん」
「五葉か、どうした?」
「あのね、お願いがあるんだけど……」
 ある日の昼下がり。政宗の部屋を訪れた五葉は、胸に抱えた本を、彼に見せつけるように突き出した。
「いっしょにこれ、作ってほしいの」

 幼い頃から、様々な家事をこなしてきた五葉が、唯一苦手とするのが菓子作りである。
 ホットケーキレベルであれば問題なく作るが、クッキーやプリン、はたまたケーキなどはもうお手上げ。意外と大雑把なところがある五葉は、菓子作りのような細かい作業はどうも苦手なのだ。
「wait、五葉。そう雑にやるな、ほとんどこぼれてるだろ」
「うー……」
 キッチンにて。政宗に指導を請いながら、菓子作りを進めようとする五葉だが、やはりどうにも上手くいかない。薄力粉をふるいにかけるのにも、粉がこぼれて一苦労している。
「飯はなんなくこなすくせに、sweetsを作るのは苦手なんだな」
「いつも目分量だから……はかったりするの、苦手」
「Hum、確かに面倒だけどな」
 そう言う政宗は、五葉と会話を交わしながらも、作業を器用に進めている。
「recipe通りにきっちり量れば、とりあえず失敗はしねぇだろ。初めてで美味いもんを作るんなら、それくらいの苦労はしないとな」
「うん……」
「そんな顔すんな。美味いcookie作るんだろ?」
「ん。がんばる」
「That's it.(その調子だ)」
 政宗と五葉の前には、開かれたお菓子のレシピ本。そこに写っている美味しそうなクッキーを見て、五葉は強く頷いた。

 バターに砂糖、それから卵を少量ずつ。混ぜ合わせたボウルに、ふるっておいた薄力粉を入れて、さらにざっくりと切るように混ぜる。
 固まってきた生地を、今度は手でかき集めて、軽くこねたら、冷蔵庫で30分ほど寝かせる。政宗が指示する手順を、ひとつひとつゆっくりとこなし、二人はようやくクッキーの型抜きまでこぎ着けていた。
「ah、そういえば、なんでまた急にcookieなんだ?」
「え?あ。あのね……」
 花のかたちをした型で生地をくりぬきながら、五葉は照れたように微笑う。説明しようと口を開けば、甘い香りに誘われたのか、一人の人物がキッチンに顔を出した。
「あれー、竜の旦那と五葉ちゃん、二人で何してるの?」
「!!」
「Hey 猿、邪魔すんじゃねぇよ」
 そう政宗が吐き捨てれば、彼は全く気にしていないように、二人の手元を後ろから覗き込んだ。
「甘い匂いがするけど、それ、甘味?ウチの旦那が好きそう」
「クッキー、だよ」
「くっきー?」
 たどたどしく五葉が答えれば、佐助は首を傾げる。その疑問には、慌てている五葉の様子も含まれているようで。内心、どうしよう……と五葉が大混乱に陥っていれば。
「おい、邪魔だから向こう行ってろ」
「ちょっとちょっと、そんな邪魔者扱いしなくてもいいでしょ」
「Ha!邪魔者“扱い”じゃなくて、邪魔なんだよ。俺と五葉のsweet timeに入ってくんな」
 空気読め、そう鼻で笑い、政宗は佐助を蹴り飛ばそうとする。しかしそれは残念ながら避けられてしまったが、二人の様子を見た佐助は、仕方なさそうに肩を落とした。
「はいはい、わかりましたよ。全く、そんなに邪険にしなくても……」
 ぶつぶつと呟きながら、キッチンを後にした佐助に、五葉はようやくホッと息を吐いた。
「……なるほどな。読めたぜ」
「……うん、そうなの」
 今の反応を見れば、勘のいい政宗ならすぐに気付いただろう。五葉がどうしてクッキーを作り始めたのか、このクッキーを、誰に渡そうとしているのか。
「妬けるな」
「え?」
「ah、何でもねぇよ」
 苦笑した政宗は、予め170度に設定しておいたオーブンに、型抜きして並べたクッキーを入れた。
 普段、幼いくせに滅多に人に頼らない彼女が、自分に頼み事をしてまで作ったクッキー。それを贈られる猿飛には、物凄く腹が立ったけれど。
「(美味いって、言ってもらえるといいな……五葉)」
 彼女の頑張りは、報われてほしいと思うのだ。

「おいしそうにできたねっ」
「ああ。よく頑張ったな」
「ううん。政宗兄さんのおかげだよ」
「No、俺はただ手順を指示しただけだ。五葉が頑張ったからなんだよ」
 ふわり、と。鼻をくすぐる芳ばしくて甘い香り。ちょうどよい焼き色のクッキーを眺め、その成果に顔をほころばせる五葉の頭を、ぽん、と政宗の手が撫でた。
「喜んでくれると、いいな」
「Don't worry.アイツなら、飛び上がって喜ぶだろ」
 オレンジ色の綺麗な箱に詰められたクッキー。それを持ち、不安げな表情を浮かべる五葉に、政宗は笑う。
「じゃあ、渡してくるね」
「ああ、頑張れ」
 とたとたとキッチンを出ていく五葉を見送り、余ったクッキーに手を伸ばす。
 さくり。政宗の口の中で砕けたクッキーは、思いの外甘い味がした。

「佐助さんっ」
「ん、どうしたの?甘味作りはもうおしまい?」
 リビングで、幸村と共に話し込んでいた佐助のもとに駆け寄れば、彼は笑いながら首を傾げた。甘味、の一言に、目を輝かせる幸村と、ソファに座っている元就の視線を感じながら、手にした箱を佐助に差し出す。
「あのね、これ……佐助さんにつくったの」
「俺様に?」
「うん。いつも、お世話になってるから」
 だから受け取ってほしい、と、段々と小さくなってしまう声で言えば、佐助は目を丸くして。それから嬉しそうに、差し出された箱を手に取った。
「ありがと、五葉ちゃん。すごく嬉しい」
「ほんと……?」
「嘘なんか吐かないよ」
 よしよし、と撫でてくれる手は、今までで一番優しく。受け取ってもらえたことに安堵した五葉も、強張っていた表情をようやく崩した。
「何故、猿だけなのだ……!解せぬっ」
「五葉!某にはないのでござるか!?」
「え、だって……」
 かちゃり。リビングの扉が開いて、余ったクッキーを持ってきた政宗がこちらにやってくる。それを見ながら、五葉は笑った。
「だって、もうすぐ母の日だから」
「……は?」
「いつもがんばってるお母さんにね、感謝しましょう、っていう日なんだよ」
「……ちょっと、五葉ちゃん。これ、まさか……」
「うん!佐助さんは、みんなのお母さんだから」
 だから、感謝の気持ち。
 そう胸を張った五葉に、佐助が思いきり肩を落とし……その場にいた武将達の、笑い声が響き渡ったのは、言うまでもない。


※いく様へ
虹色番外で、政宗や佐助とお菓子作りをする話、ということで、こんな感じになりましたが、いかがでしたでしょうか?
もう少しわちゃわちゃさせたかったのですが、すみません、私にはこれが限界でした(´・ω・`)小十郎さんも残念ながら出せず仕舞いでしたが、彼には父の日になにかしてあげようと思います←
少しでも、いく様のお気に召していただければ幸いにございます。この度は、リクエスト企画にご参加いただきまして、誠にありがとうございました!


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