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■ 影踏み


 日課の手合わせを終えて庭に出た俺様の後ろを、五葉ちゃんがついて歩く。
 じゃりじゃり、じゃりじゃり。砂まじりの土を踏みしめる二人分の足音が、あたりに響いていた。
「……ねえ、五葉ちゃん」
「んー?」
「俺様になんか用なの?」
「特に用はないけど」
 ぴたり。足を止めた俺様に合わせて、五葉ちゃんも歩みを止める。首を傾げる彼女が考えていることは、正直よくわからない。
「佐助はさ、影踏みって知ってる?」
「影踏み?」
「そ、影踏み鬼。子供の遊びだけどね」
 俺様の影の上で、とん、と足を踏み鳴らした彼女は、そっと口元に笑みを浮かべた。
「もとは呪いなんだってさ」
「……俺様、なんか五葉ちゃんに恨まれるようなことしたっけ?」
「してないね。むしろ感謝ばっかりしてる」
 とん、とん。五葉ちゃんが生み出す律動が、何度も何度も俺様の影を揺らす。
「じゃあ、なんでさ?」
「影踏みの呪いは、相手を自分だけのものにするって意味があるんだって」
 笑みを消した五葉ちゃんが、俺様をじっと見上げた。
「こうすれば、少しは佐助が私を見てくれるかな、って。思った」
 真剣な眼差しは一瞬だけ。誤魔化すような笑顔に表情を変えた彼女は、そっと俺様の影の上から退いた。
 ……すっごい殺し文句。自分を見て欲しい、相手を自分だけのものにしたい、だなんてさ。
「これ以上、どこをどう見ればいいんだか」
「……え?」
「ちゃんと見てるよ。そんな呪いに頼ること、ない」
 呆れたように、苦く笑った俺様は、お返しとばかりに五葉ちゃんの影に乗った。
「はい。これで、五葉ちゃんは俺様のもの」
「佐助……?」
「他に目移りしちゃ駄目だからね」
 悪戯っぽく言えば、彼女の頬が淡く染まった。自分から仕掛けたんだから、照れることないだろうに。
 でも、桃色の頬に手を添えれば、ちゃんと俺様を見てくれる。
「俺様は武田の忍だ」
「うん……」
「だから、五葉ちゃんだけのものにはなれない」
 この身体も、心も、全ては主の為に。それが忍としての生き様だから、彼女がどんなに望んでも、俺様はそれを変えられない。誰でもない、俺様自身がそう決めているから。
「呪いってさ、その人間の魂の一端を掴むものらしいよ」
「魂を?」
「そう、だから。俺様の魂の欠片を、五葉ちゃんにあげる」
 身体も、心も、残念ながらあげられないけど。もっと深い場所にある魂ってやつを、君に渡そう。
「……ありがとう?」
「なんで疑問系なの」
 ふは、と思わず笑ってしまった俺様は、彼女の頬をひとなでしてから影から離れる。
「ああ、それから」
「はい?」
「貰っとくよ、五葉ちゃんの欠片も」
 ひらひらと手を振って、俺様は逃げるように己の影に溶けた。恥ずかしがるなんて、俺様らしくもない。
「欠片だけじゃなくて……全部あげるのに」
 ため息まじりに聴こえてきた声は、まだ知らないふりをすることにした。


※謙様へ。
ゆめあと番外で、佐助とのお話ということで、こんな感じになりましたが、如何でしたでしょうか?
すみません、完全に趣味に走らせていただきました← 付き合ってはいないんだけど、お互いに好きで好きで仕方なくて、でもひねくれた表現方法しか見つからない、という。ちょっとひねた感じが好きなので、お気に召していただけるか心配なのですが(´・ω・`)
少しでも謙様のお気に召していただければ幸いです。この度は、リクエスト企画にご参加いただきまして、本当にありがとうございましたっ!


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