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■ 生命


 片倉小十郎は、何よりも畑仕事が大好きだという。
 庭の片隅で何やら作業をしていた小十郎を、離れた場所から見守っていた政宗に、彼は何をしているのかと問えば、そんな答えが返ってきた。
「竜の右目、なんて恐れられちゃいるが、戦場を一歩離れれば、小十郎は野菜にLoveを注ぎまくるんだよ。暇な時は日がな一日、畑にいることもあるぜ」
「そうなんだ」
 それは凄い、と五葉が感心していると、苦笑した政宗に、だから、とひとつ頼み事をされた。
「五葉が嫌じゃなかったら、小十郎に畑仕事をさせてやってくれねぇか?」

 ――そういえば、彼らがこちらに来てばかりの頃。自分は彼とこんな会話をした。
 野菜が好きだという彼に、ならば庭で野菜を育てても構わないと。すっかり忘れていたその言葉を、政宗との会話で思い出した五葉は、小十郎と連れたって、近所のホームセンターを訪れていた。
 目的は野菜の種。畑となる場所の整備は、小十郎が既に済ませているという。
「悪いな、手間をかける」
「ううん。わたしこそ、ずっとわすれててごめん、ね」
「いや、気にするな。俺のことなんざ後回しで構わねえ」
「だめ。小十郎さんには、お世話になってるから」
 掃除、洗濯、料理。自由奔放な彼の主や、不器用な幸村、我が道をゆく元就のかわりに、彼や佐助、料理以外は小太郎が、家事一般を担ってくれていることを、五葉は知っている。
 彼らが来る前はすべて自分でこなしていたそれらが、どれだけ大変であるかも身をもって理解していた五葉は、小十郎達に常々感謝していたのだ。
「だからね、これはお礼のきもち」
「そうか。ありがとうな」
 優しく頭を撫でられて、五葉はほのかにはにかんだ。
「小十郎さん、どれがいい?」
「こっちの野菜は、まだよくわからねえからな。……これにするか」
「(ごぼうとねぎって、なんか渋い)」
「お前が食いたいもんはないのか?」
「わたしはね、これがいいな」
 五葉が手にとったのは、定番かもしれないがトマトの種。野菜があまり好きではない五葉も、これだけは喜んで食べるのだ。
「ああ、そういえばお前はこの野菜が好きだったな」
「うんっ。あのね、甘いやつがいいの」
「育ててみないとわからねえが、それじゃ甘くなるように努力してみるか」
 トマトの種を手に、楽しそうに笑う小十郎は、とても竜の右目と恐れられる存在に見えなかった。
「(ほんとに、お野菜がすきなんだね)」
「とりあえずはこんなもんでいいだろう。……五葉?」
「あ、なんでもないの」
「そうか?……、五葉、すまねえが先に会計しててくれるか」
「?うん、いいよ」
「悪いな、すぐに行く」
 その言葉通り、レジでの会計の途中に小十郎は帰ってきたけど。その手に握られたものがなんだったのかは、さりげなく背中に隠されて、五葉にはよくわからなかった。

「わたしも、種まきしたいな……」
「ああ、構わねえ。一緒にするか?」
「うんっ」
 無事に家に帰りつき。早速庭に出た小十郎の後ろにまとわりついてポツリと呟けば、仕方ないな、と言いたそうに笑った彼が頷いてくれた。
 窓辺には、政宗の姿。いきいきとしている己の右目の姿を、嬉しそうに眺めていた。
「まずは指先で穴をあけて、そこに種を蒔くんだ」
「んと……、こう?」
「ああ、その調子でやってみろ」
「わかった!」
 小さな指でぐりぐりと土を掘って、丁寧に種を落とす。
「かんたん、だね」
「最初はな。大変なのはこれからだ」
 腰を屈め、すぐ隣で作業をする小十郎を仰ぎ見る。そして首を傾げれば、小十郎はこちらを見ずに話し始めた。
「水やりひとつにしても、多くても少なくてもいけねえ。よく目をかけて、小まめに手入れしてやらねえと、すぐに虫に食い荒らされる。何かを育てるって事に、簡単な事はねえさ。どれも、作ろうと思うまでは簡単だがな」
「うん」
 野菜や米、果物。それらが作られる過程なんて、五葉はテレビでしか見たことがない。しかし、それらを満足のいく大きさまで育て上げるのがどんなに大変か、知らないわけではなかった。
「万物には生命(いのち)が宿ってる。野菜も子供も大人も、みんな同じ生命だ」
「……わかる、気がする」
「今の五葉には難しいかもしれねえな。なに、いずれわかるさ」
 頭を撫でようと手を伸ばした小十郎は、その手が土で汚れていることに気づいて苦笑した。
「ところで五葉。花は好きか?」
「お花?だいすき」
「そうか。なら、」
 重ねられた野菜の種に隠すように、一番下からとある袋を取り出した小十郎は、それをきょとんとする五葉の手に乗せた。
「お花の……たね?」
「ああ。さっき、花のほうを見てただろう」
「あ……」
 そういえば先程のホームセンターで、見つめていた小十郎の後ろにあったのは、花の種ではなかったか。
 自分が見つめられているとは気づかず、五葉が花を育てたがっていると思ったのか。なんとも、彼らしい。
「ありがと。お花、育ててみるね。……でも、ちゃんとできるかな」
「心配するな、俺も一緒に手伝ってやる」
 この花を育てあげれば、小十郎が言っていた“生命”を、自分も本当の意味で理解出来るだろうか。
「小十郎さんがいっしょなら、きっときれいなお花が咲くね」
「だといいがな。俺も、花は育てたことがねえからな……」
「だいじょうぶ、だよ」
 だって彼はこんなに優しくて、暖かい人なんだから。万物に宿る生命が本当にあるならば、きっと感じ取ってくれるはずなのだ。
 丈夫に元気に、育てや育てと。自分たちを慈しんでくれる人の、綺麗な願いを。


※紗代様へ
虹色番外で、片倉さんと夢主が家庭菜園を作るお話、ということで。こんな感じになりましたが、如何でしたでしょうか?(*´`)
やはり片倉さんと家庭菜園ははずせないお話ですよね。うまく紗代様のストライクゾーンにハマって、少しでもほのぼのしていただければ幸いにございます(笑)この度は、リクエスト企画にご参加いただき、誠にありがとうございましたっ!


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