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■ キミに夢中!


「そなた、暇を持て余しているならば我に付き合うがよい」
「えー、また日輪参拝ですか?」
「なんぞ、文句があるのか」
「いえ別に」
「……フン。そなたは日輪の神娘。共に日輪を拝めば、我にも御利益があるかもしれぬ」
「だから、何度も言いますけど私にそんな力はありませんって」
 自室で寛いでいた五葉を、毛利が庭に引っ張っていく。口では文句を垂れながらも、掴まれた腕を振りほどくでもない五葉に、やけに苛立ちを覚えた。
 豊臣に降りた神の娘。その噂を聞きつけ、安芸の智将が遥々この大阪にやってきてから、幾日かが経った。
 奴は五葉を日輪の神娘などと呼び、気安く構い倒しては日々を過ごしている。それは五葉が、奴の崇拝する日輪に縁ある者だからか。それとも……。
「……気に入らん」
「やれ、それでわれに愚痴を言いに参ったか、三成。……ぬしも難儀な男よ」
 やれやれ、と肩をすくめた刑部は、数珠玉を磨いていた手を止めた。
「気に入らぬならば本人に言うがよかろ。ぬしが離れていくようで寂しい、となぁ」
「だっ……!誰もそんな事は言っていないだろう!」
「ヒヒッ……、そうか?毛利が滞在するようになってから、神の娘は毛利にかかりきりよ。われはてっきり、それが寂しいのかと思うたのだがなぁ……」
 眉を吊り上げる私を見やって、可笑しそうに笑う。
 寂しい?私が?……この苛立ちを、貴様はそう名付けるのか。だが、言葉とは裏腹に、下らないと切り捨てるには少々的を得すぎているような気がした。
「なに、そう気に病むでない。しばし待てば、毛利も飽きるであろ」
「……そうだろうか」
「ふむ……?」
 一抹の不安。このまま放っておけば、五葉が奴に盗られてしまうのではないか。
 豊臣を去り、毛利と共に安芸にでも行ってしまうのではないか、と。
「三成よ、そこまで案ずるのであれば、己で動くしかあるまい」
「動く……?」
「ヒッ、毛利が此処に来やる前は、神の娘がぬしによくしておったであろ?同じように、ぬしが神の娘にまとわりつけばよいのよ」
「私が、か」
 やはり、五葉の気をひくにはそれしかないのだろうか。
「……わかった」
 覚悟を決めた私は、ひとつ頷いて立ち上がる。
 五葉が盗られてしまうのが寂しいからではない。日ノ本の異変に影響を与える神の娘を失えば、それは豊臣にとっても大きな損失。これはひいては秀吉様の為なのだ、と、そんな風に言い訳をしながら。
「……ヒ、ヒヒッ!あの三成が動くとはなぁ。後で様子を見に行くとするか……」
 楽しげな囁きが、暗い部屋に響いていた。

 ずんずん、と苛立ちを床にぶつけながら廊下を進む。曲がり角を折れれば、見えた庭に先程の二人の姿はなかった。そのことに何故か酷く安堵する。
「五葉、入るぞ」
「どうぞ」
 短い返事を受け取ってから、障子をからりと開け放った。そこにも毛利の姿はなく、五葉がひとり、足を投げ出して座っていた。
「……行儀が悪い」
「元就さんみたいなこと言わないでよ、もう」
 む、と頬をふくらませた五葉は、しかし仕方なさそうに姿勢を正す。その向かいに腰を下ろせば、どうしたと問いかけられた。
「三成から訪ねてくるなんて珍しいね。なにか用だった?」
「特に用はない」
「……そう?」
「用がなければ、来てはいけないのか」
「別に、そんなことはないけど」
 戸惑うように首を傾げる五葉に、腹立たしさが更に募った気がした。
 大した用もなく、五葉を構う毛利は受け入れるくせに、私は駄目なのかと。そのような他意など五葉にはないと、わかっていながら。
「でも、よかった」
「何がだ?」
「最近、三成と話せてなかったからね」
 そうして笑った五葉は、本当に嬉しそうで。もやもやと心を渦巻いていたものが、すっと溶けていった。
 ……私は、これほどまでに現金な人間だっただろうか。
「貴様が、あの男ばかりを構うからだろう」
「そうは言っても、豊臣にとって元就さんはお客様でしょ?失礼な振る舞いをして、私を置いてくれてる秀吉様や半兵衛さんに迷惑がかかったら大変だし」
「確かに……そうだが」
 正論ではある。然し、そう簡単に受け入れられたら苦労はしないのだ。
「毛利と共に、安芸に行くつもりはないのか」
「えぇ……?」
 不意に私が訊けば、五葉は驚きに目を見開いた。
「いやいや、あるわけないよ、そんなの」
「……裏切りは許さない」
「裏切らないから。……大丈夫、私は豊臣にいるよ。拾ってもらった恩もあるし……」
「フン、そんな恩など、捨ててしまえばよかろう」
「……っ、貴様っ!」
「元就さん!?」
 五葉の発言に被せるように、がらりと勢いよく障子が開いた。
 そこにいたのは、皮肉げな微笑を浮かべた毛利元就。つかつかとこちらに歩み寄った奴は、わざわざ五葉の隣に腰を下ろして鼻を鳴らした。
「五葉は日輪の神娘ぞ。我のもとに置くのが必然であろう」
「貴様っ、勝手なことをぬかすな!五葉は豊臣にいると言ったのだ!」
「それは、五葉が下らぬ恩義に縛られておるからぞ」
「いや、あの……」
「下らぬとはなんだっ!!秀吉様や半兵衛様の慈悲に報いるまで、此処を出る事は私が許さない!」
「え、監禁宣言?」
「フン……。縛りつける事しか脳のない貴様のもとで、日輪の神娘が幸せに暮らせるとは到底思えぬわ」
「何だと貴様あああっ!」
「いや、今でも十分幸せなんですけど……」
 ぼそり、と呟いた五葉の言葉も、私と毛利のやり取りにかき消されてしまう。
「大体、貴様は五葉を日輪の神娘としか見ていないだろうっ!」
「それがどうした。そうした肩書きがあれば、我の妻となる事も容易いであろう」
「妻っ!?ちょ、元就さん、いきなり話が飛躍しすぎ……」
「私は、五葉を神の娘などと思って接したことはない!」
「フン。だから貴様は阿呆なのだ。五葉に秘められし能力、眠らせるには惜しいと思わぬのか」
「思わんっ!私は、五葉が五葉だから気に入っているのだ!」
「それはちょっと嬉しいっ、けど、いい加減に照れるから二人とももうやめよう!助けて刑部さあああんっ!!」
「……やれ、なんとも騒がしい。ぬしらの声が外にまで響いておるわ……ヒヒッ!」
 五葉が刑部の名を叫んだ瞬間、見計らったように刑部が現れた。更に言い募ろうとした私と毛利の頭に、浮かべた数珠玉を容赦なくぶち当てる。
「何をする大谷……っ!」
「やめよ、見苦しい。その姿、智将も形無しよ、カタナシ」
 抗議の声をあげた毛利も、刑部の冷たい眼差しを受けて押し黙った。
「ヒッ……、五葉が此処にいると言うたのよ。毛利、潔く諦めるがよかろ」
「(いつから聞いてたんですか刑部さん)」
「……フン」
「なに、ぬしの奮闘によっては、五葉の気も変わるやもしれぬがなぁ。そうなれば、われらに止める権利などない、ナイ」
「余計なことを言うな刑部っ!」
「その言葉、忘れるでないぞ」
 にや、と唇の端を上げた毛利は、満足げに部屋を出ていった。
「……面白がりましたね、刑部さん」
「ヒヒヒッ!今のぬしが助かったのであれば、問題はあるまい?」
「問題ありまくりですって……」
 ぐったりとする五葉を励ますように、その肩を刑部が叩く。
「そう気に病むこともない」
「え?」
「やれ、三成よ。神の娘が毛利に連れ去られぬよう、しっかりと守るがよかろ」
「ふんっ、貴様に言われるまでもない。……五葉!」
「は、はい!?」
「貴様は私のそばにいろ。常にだ!」
「……」
 四六時中共にいれば、五葉を盗る隙もないだろう。顔を赤く染める五葉と、大きく笑う刑部を尻目に、私は刀を強く握った。
 奴との戦いは、まだ始まったばかりだ。


※高月様へ。
ゆめあと番外で、ナリ様ズが夢主にデレるお話、ということで。こんな感じになりましたが、如何でしたでしょうか?
デレる、がちょっと難しかったので、二人で夢主を取り合ってもらいました。なるべく平等にしようと思ってたんですが、かなり三成寄りになってしまった気が……!元就様寄りのほうをお望みでしたらすみませんっ!
少しでも高月様のお気に召していただければ幸いにございます。この度は、リクエスト企画にご参加いただきまして、本当にありがとうございました!


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