虹色の明日への番外編 | ナノ


色の明日へ
銀色と夏の風物詩


※if設定。もしも6人+三成が落ちてきていたら。


 夏というものは、僅かな動作でも体力が根こそぎ奪われるような気がしてしまう。
 この異世界の夏は、三成達が暮らしていた世界よりもずっと暑さが厳しいらしい。ひーとあいらんど、だとか、地球温暖化、だとか。“てれび”でご丁寧に説明されても、残念ながら三成にはよく理解出来なかったが、とにかく暑い事だけはわかった。
「……何をしている」
 そんな矢先、縁側で必死に背伸びをしているゆずかを見つけたから、思わず声をかけてしまった。
 三成兄さま、と己の名を呼び、へらりと微笑む少女の額にも、玉のような汗が浮かんでいる。
「あのね、これ、飾ろうとおもって」
「何だ、これは。……風鈴、か?」
 ちりん。涼やかな音色が、ゆずかの手元で鳴っている。透明な硝子に、赤と黒の金魚の絵が描かれたそれは、三成にも馴染みがないものではなかった。
「風鈴って、そんなに昔からあったの?」
「ああ。尤も、私の知っている風鈴は、金属で出来た物だが」
「そうなんだ。いまもあるよ、鉄でできたやつとか」
「そうか」
 だが無骨な鉄製の物よりも、ゆずかに似合うのはこの丸くて滑らかな可愛らしい風鈴だろう。
 ゆずかの手からそれを抜き取り、少女が格闘していた頭上の場所に引っ掛ける。軽く引っ張り、落ちない事を確認してから、三成はゆずかを連れてリビングに戻った。
「きれいな音、するね」
「……ああ」
 せんぷうき、とかいう風を起こす道具の音の隙間に、ちりりんと涼を感じさせる音色が鳴る。
 たかが音ひとつ、しかし先程よりもずっと、暑さが和らいだような気がした。
「三成兄さまも、暑いのにがて?」
「得意ではない」
「わたしも。暑いのより寒いほうがいいな」
 チラリと横目で見やったのは、恐らく壁に設置されている、くうらあと呼ばれる道具だろう。
 この回転する道具よりもずっと冷たい風を送る道具は、どうやら三成達が来るまで、ゆずかの夏の必需品であったらしいが。
「諦めろ。片倉の怒鳴り声は、暑さよりも癇に障る」
「やっぱり、おこられるよね」
 体に悪い!と激怒した片倉によって、かの道具は余程の暑さでない限り、使用禁止にされていた。名残惜しそうな視線を送りながら、“せんぷうき”の風に髪をなびかせてため息を吐く。
「……こうして、音色に身を委ねているのも悪くはない」
「そう、だね。そのために飾ったんだもんね」
 目を閉じれば、鮮明に感じられる。冷涼の音色を、頬に当たる柔らかな風を。
「三成兄さま、かき氷たべよっか」
「何だ、それは?」
「氷でつくる甘味だよ。わたし、兄さまのためにつくってあげる!」
「貴様が食べたいだけだろう」
「……いらない?」
「ふん……、仕方ない。付き合ってやる」
「うんっ」
 とたとたとリビングを出ていく少女の背中を見送り、三成は自分でも気づかぬ程のほんの微かな笑みを浮かべた。
 存外穏やかなその笑みを、風に揺れる風鈴だけが見つめていた。


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