虹色の明日への番外編 | ナノ


色の明日へ
鬼さんと猫の絆創膏


※if設定。もしも6人+元親が落ちてきていたら。


「おら、そんなに泣くな。こんくらい大した傷じゃねェ」
「ぅ、……ひっく」
 ゆずかが泣いて帰ってきた。
 どうやら帰り道で転んだらしいが、膝を擦りむいたらしく血が滲んでいる。眉を下げて、涙をポロポロと零している姿は何とも痛々しい。
 こういう時に限って、世話焼きの右目や猿飛は席を外しているのだから、困ったものだ。風魔は何処に行ったかわからねえし、毛利は書斎にいるが、アイツに泣いた幼子の世話をしろというのも無理があるだろう。かと言って、見て見ぬふりをすることも出来ない。
 しょうがねェな、とぼやきつつ、砂で汚れた洋服を払ってやる。そのまま膝裏に手を差し入れて抱えあげれば、ゆずかは驚いた様子で目を丸くした。
「傷、洗ってやるから大人しくしとけ」
「……いたく、しない?」
「おー」
 まあ、多少は痛むだろうが仕方ない。なるべく抱えた体を揺らさないように風呂場に向かって、ひんやりと冷たい床にゆずかを下ろす。
「ちっとは痛くても我慢しろよ?」
「ん……」
 腕まくりをして、手に取った“しゃわあ”ってやつから流れる水がお湯に変わるのを待ってから、目をぎゅうっとつぶって、これから来る痛みに耐えようとしているゆずかの頭を撫でた。
「……っい!」
「悪いな。大丈夫だ、すぐ終わる」
 それほど深い傷ではない。周りについた土を落とすだけでいいだろう。
 あまり傷に響かないように水流を調節しながら洗い流していれば、段々と痛みに慣れてきたのかゆずかがゆっくりと目を開けた。
「ったく、転んだくらいで泣くようじゃまだ子供だな」
「……わたし、こどもだもん」
「はは、そうだったな。けどよ、俺ァ、涙を見せねェ強い女がいい女だと思うぜ?」
 メソメソといちいち落ち込んだりしねえ、強い女が好みだと。そう笑えば、小さな声で頑張る、と返ってきた。
「うし、これでいいだろ。確か、包帯のある場所は……」
 猿飛や右目ほど、この家にある物を把握しているわけじゃない。薬箱は何処にあったかと思い返していると不意に、ゆずかが腕まくりをしたままの素肌に触れた。
「親兄も、いたい?」
「あ?」
 ゆずかが触れたのは、昔の戦で負った古傷だった。皮膚がひきつれたようになっているそこは、ゆずかからしてみれば痛そうに感じるのだろう。
 そうか、あまりゆずかの前で肌をさらしたことはなかったな。
「別に痛かねェよ。もう治ってる」
「ほんと?」
「ああ」
 嘘ではない。かの戦を夢に視たりした時に幻の痛みを感じる事もあるが、傷自体は既に完治している。
 俯いて、それを撫で続けていたゆずかが、急にはっと何かを思いついたように顔を上げた。
「わたし、親兄にばんそうこう貼ってあげる」
「ばんそうこう?なんだ、そりゃ」
「んと、包帯のかわり?いたいところにね、ぺたって貼るんだよ」
「へえ……って、おい。そりゃ先にゆずかが貼るもんだろ!」
 さっきまで痛がって泣いていたのに、今は笑顔で俺の手を引っ張っている。子供は本当に現金なものだ。
 手を引かれるまま、濡れた手足を拭いてリビングに戻る。そしてゆずかが戸棚から取り出したのは、可愛らしい猫の絵が描かれた箱だった。恐らくこの中に、ばんそうこう、とかいうやつが入っているのだろう。
「親兄、手だして」
「……おう」
 だから俺より先に自分の膝を……と止める隙もなく、小さな紙のような物を俺の腕に貼りつけた。
 その小さな“ばんそうこう”では、この古傷を全て覆うことは出来なかったけど。ゆずかが満足そうだから、もうそれでいいかと諦める事にした。
「わたしの足と、おそろいだね」
「そうだな」
 ぺたり。もう一枚取り出した“ばんそうこう”を、ゆずかの膝に貼りつける。
「ゆずか」
「なあに?」
「ありがとな」
 このどこかホッとするような温かい気持ちは、きっと元の世界にいる時にはわからなかったもの。
 ふと視線を落とせば、ゆずかに似た白猫が、俺の腕で笑っていた。


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